シチズンの時計づくりを映す、フラッグシップモデル

薄型時計の開発とは、考え方はこの上なくシンプルだが、その実これほど時計製造の総合的な力量を問われるものもない。限られたスペースでいかにして内部機構を設計・製造するか、高度な機械技術が求められるうえ、それをケーシングした後に時計として正常に作動しなければならない。薄さを追求しながら、耐久性、耐衝撃性、防水性、精度といった時計の基本要件を満たすためには、素材選び、部品の設計・加工、組み上げ、接合方法……など、多くのプロセスで技術・ノウハウが必要になる。

一昨年、シチズンが発表した薄型時計の「エコ・ドライブ ワン」は、まさに同社が一丸となって完成させたフラッグシップモデルである。ケースの薄さ3.00ミリを切るエコ・ドライブ腕時計を目指して2014年に開発がスタート。時計屋にしかつくれない時計と日本のものづくりの本質に向き合い、「見やすさ、着けやすさ、美しさ」というシチズンが理想とする時計を追求して切り開いた新地平である。シチズンには光発電エコ・ドライブを発明し進化させてきた技術的蓄積があり、チタニウムに代表される素材加工技術があり、そして部品一つから時計完成品までを自社で一貫して製造できるマニュファクチュールがある。それらを動員して到達したのがエコ・ドライブ ワンだった。

ケース厚3.53mm(設計値)と、チタニウム時計では世界最薄レベルの「エコ・ドライブ ワン」。ケース、ブレスレットはスーパーチタニウム™。ケース径36.5mm。光発電エコ・ドライブ。各50万円(税別)、特定店取り扱いモデル
写真の黒、青のほかホワイトのダイヤルもあり

本領発揮のチタニウム、理想追求のアルティック

さて、今年はシチズン創業100周年という節目となった。そのアニバーサリーイヤーに登場したエコ・ドライブ ワンの新作がここで取り上げる時計である。上の写真は、外装(ケースとブレスレット)にシチズン独自のスーパーチタニウム™を用いたモデル。やや湾曲した裏蓋の形状と合わせて、肌なじみがよく装着感も心地いい。ケース厚は3.53mm(設計値)と、チタニウム時計では最薄レベル。ベゼル留めのビスを裏面に設けたことで、上品さが一段と際立っている。2018年度グッドデザイン賞受賞。チタニウムの加工技術においてシチズンは世界的に見ても先駆者であり、その技術もトップレベルにある。薄型ケース&ブレスレットが生み出すエレガンスはチタニウム時計のイメージを一新する。

一方、下に掲載した写真は、アルティックという新素材をベゼルに用いた世界数量限定モデル。アルティックは金属の切削工具などに使われる硬質素材で、この素材を用いたのは、時計業界ではこれが初めてである。実は開発当初、エコ・ドライブ ワンのベゼルはブラックを想定していた。黒のほうがケースの薄さがより際立つためだ。当時はブラックで高硬度の素材がなかったため断念したが、その後2年越しで素材の探求・研究を重ね、今年ついに理想的なデザインに至った。薄さ2.98mm(設計値)のケースを実現する強度を備え、同時にダークグレーの色みがモダニティーを漂わせている。

時計業界では初となるアルティックという素材をベゼルに用いた「エコ・ドライブ ワン」。ケース径37mm。光発電エコ・ドライブ。70万円(税別)。世界数量限定1000本
サーメット×アルティックで、ワニ革ストラップ。ケース形状も、シャープな印象にマイナーチェンジが施された
組子が美しい特製ボックスが付属する

決して派手ではなく、むしろ控えめで大人しい顔つきである。だが、本物は多言を要さず。シチズン「エコ・ドライブ ワン」。ものづくりの精神やクラフツマンシップを、これほど内に宿す時計はそう多くない。

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シチズン時計株式会社
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edit & text:d・e・w
photograph:Shoichi Kondo