男にとって腕時計はほとんど唯一の装身具だ。それゆえ着け手の氏素性、趣味嗜好、センス、すべてを語る。たかがタイムピースと侮るなかれ。相まみえる人々にかくも強い印象を与えるのなら、逆に、エグゼクティブたるもの、格の高いハイセンスな腕時計を強力な発信ツールとしてもっと意識的に捉えてもいい。時計にも「格」があり、格の高い時計は着け手の品位をいっそう際立たせるだろう。

PORTUGUESE PERPETUAL CALENDAR(ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー)IWC

ここで紹介するIWCの「ポルトギーゼ」コレクションは、1930年代に始まる歴史がある。ポルトガル商人の求めに応じて、航海用のマリンクロノメーターに匹敵する高精度の腕時計、というコンセプトでつくられたのが起源である。精度のためにあえてポケットウォッチのムーブメントが使われた。

IWCの技術責任者だったアルバート・ペラトンが1950年に考案した両方向巻き上げ自動巻き機構は、彼の名を取って「ペラトン式自動巻き機構」といわれ、現在もIWCのムーブメントに継承されている。そのペラトンの弟子がIWCの永久カレンダーをつくったクルト・クラウス。先端を切り開いてきた精密技術の歴史がIWCの時計には詰まっている。

かく語るべき歴史があるというのは時計の「格」を構成する一要件だろう。かつ複雑機構の永久カレンダーと高精度ムーンフェイズを備えた「ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー」は、タイムピースとしての実質を最高レベルで実現してもいるのだ。

パーペチュアルカレンダー、すなわち永久カレンダーはIWC自家薬籠中の複雑機構。2100年までは調整の必要なし。4桁の西暦表示が特徴的。12時位置には北・南両半球の月齢を示すダブルム-ンフェイズを配置。577.5年に1日の誤差という高精度。IWCの時計技術の総結集といえる。ラッカー仕上げのホワイト文字盤とムーンフェイズの円窓のミッドナイトブルーの鮮やかな対比が若々しくも気品を醸す。

ポルトギーゼは大型時計ブームを巻き起こす画期となったが、「大型」は見た目の新奇さを狙ったからではない。精度の追求という確固とした理由があり必然性があったのだ。こんな実直さをこそ我が友としたい。

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edit & text:d・e・w
photograph:
Shoichi Kondo