品とか格とか言うと、少々厳めしく窮屈な感じがするが、厳めしくも窮屈でもない品や格があることをエルメスは提起してくれる。この「カレ アッシュ」という時計などは品位もあり格調も高いが、まるで軽やかで、威圧的、押しつけがましいところがない。これぞエルメスの魔術というべきか。パリのエスプリを利かせてすべてを洗練させて見せる。
カレとはスクエア、すなわち正方形のこと。アッシュはH、エルメスの頭文字である。カレは世界中の女性に人気の高い、あのスカーフのことでもある。まさにメゾンエルメスを背負って立つ時計である。
デザインはフランスの大御所建築家兼デザイナーであるマルク・ベルティエ。マルク・ベルティエ高級ムーブメント製造のヴォーシェ社と共同開発の自社自動巻きムーブメント搭載。パワーリザーブ約50時間。
マルク・ベルティエによれば、カレ アッシュのテーマは「ジェットセッターへのオマージュ」だという。どこか計器のようでもありクール感がある。3段に構成され奥行き感のあるダイヤル、ダイヤルセンターの幾何学的な線状ギヨシェなど控えめながら丁寧なつくり込み。メゾンの美学が見える時計だ。
edit & text:d・e・w
photograph:Shoichi Kondo