「働く男を刺激するクロノグラフ」特集第1回は、まさに計時装置としてのクロノグラフを世界で初めて発明した一人との伝説が残るニコラ・リューセックを称えて、モンブランが創作したモデルを紹介しよう。

この時計に刺激を受けるのは、こんな男だ!

・原点やオリジナルのモノやコトにリスペクトを払える人
・人とは違った独創性を自負する人
・時計のみならず、万年筆など筆記具にもこだわりがある人

高級筆記具ブランドの代表として世界的に有名なモンブランが時計の分野に進出したのは1997年のこと。2008年には初のオリジナル・ムーブメントを搭載したクロノグラフ「ニコラ・リューセック」を発表する。今回のクロノグラフは、その流れを汲む2018年の最新モデルである。

そもそも「クロノグラフ」という用語は、ギリシア語のクロノス(=時間)とグラフィン(=書く)の合成語で、実際に文字通りの原型がある。1821年にフランスの宮廷時計師ニコラ・リューセックが発明した装置だ。

この装置は、どのような仕組みかというと、回転する円盤上にインクの雫を垂らして経過時間を計測するものであった。マリンクロノメーターのような超高精度の時計がすでに開発されていた当時、リューセックがこの少々原始的にも思える装置を考案したのは、宮廷人や貴族の間で人気を集めた競馬レースでの正確な計時方法を探求したためというから何とも興味深い。その後、専用のクロノグラフ秒針と積算計で記録する機構が発明され、計測時間が「書く」から「見る」ものへと様変わりしても、依然としてクロノグラフという言葉が使われ、現在に至っている。

ニコラ・リューセックが発明した装置に改良を加えた、クロノグラフ付き懐中時計
「モンブラン スターレガシー ニコラ・リューセック」。2枚のディスクが回転して60秒と30分を積算する

それにしても、なにゆえニコラ・リューセックをオマージュしたのか? その答えは簡単に見つかる。筆記具文化の担い手のモンブランだからこそ、「時を書く」リューセック式のクロノグラフを再現することが、唯一無二の個性を主張することになるからだ。

そのデザインは一目見ただけで、極めてユニークなのが分かる。文字盤上方に時刻表示のオフセンターダイヤルを置き、その下の左右に並ぶのはクロノグラフ機能の60秒と30分の表示で、構造上の外観はリューセックの計時装置と瓜二つだ。いずれも回転ディスクになっており、クロノグラフ機能のボタン操作により通常のスタート、ストップ、リセットができる。もちろん当時のようにインクの雫を垂らすことはなく、両ディスクを指すブルーの固定針によって計測結果を読み取るわけだ。

機能面での合理性を追及すれば、どうしてもクロノグラフのデザインは似通ってしまう。その点、この「モンブラン スターレガシー ニコラ・リューセック」は、独創的な個性を持つクロノグラフとしては出色の出来。時計好きには見逃せない逸品だろう。

働く男を刺激するクロノグラフ#1
モンブラン「モンブラン スターレガシー ニコラ・リューセック クロノグラフ」

ステンレススティールケース。ケース径44.8㎜。3気圧防水。アリゲーター・ストラップ(モンブラン自社レザー工房「プレテリア」製)。89万5000円(税別)

歴史的なクロノグラフを模した秀逸な機能のみならず、細部まで行き届いたクラシカルな意匠と格調高い仕上げも見どころ。オフセンターの時刻表示は、時針のみを移動して時差修正が簡単にできるほか、第2時間帯表示も備わり海外旅行に便利。

text:Shigeru Sugawara(d・e・w)