シンプルウォッチは、腕時計の基本的な構成要素のみで独自性を表現しなければならないため、外装やパーツの美しさを徹底的に突き詰めたものが少なくない。ケースやベゼルのフォルムに厚み、表面の仕上げ、さらに文字盤や針の形状、長さ、太さといったディテールの出来が完成度を左右する。シンプルウォッチ特有の広く空いたダイヤルスペースと針やインデックスのバランスには、ブランドの美意識も現れる。
また、内部のムーブメントに心血を注いだモデルが多いこともシンプルウォッチの特徴の一つ。機械技術に長けたブランドの力の見せどころは、やはりムーブメントにあり、そのブランドの設計の思想、重視している性能などが最もよく見て取れるのが、2針・3針を中心としたシンプルなムーブメントであるからだ。シンプルといえども単純にあらず、知れば知るほど奥深いジャンルである。
今年も多くのシンプルウォッチが発表された。その中から、外観面あるいは内部機構の面でブランドの力量を発揮した力作を以下にセレクトする。控えめでありながらも類まれな品格を放つ、オンビジネスの心強いパートナーになるはずだ。
■コンテンポラリーな感性が光る名門の新基軸
オーデマ ピゲ「CODE 11.59(コード イレブン・フィフティーナイン)
バイ オーデマ ピゲ・オートマティック」
SIHHへの出展が今年で最後となったオーデマ ピゲは、26年ぶりとなる新コレクションのローンチで沸いた。コレクション名は「Challenge、Own、Dare、Evolve」の頭文字と、新しい1日が始まる直前の1分間である11時59分を組み合わせたもの。八角形のミドルケースやオープンワークのラグ、ベゼルの代わりにフランジ(ダイヤル外縁のリング状パーツ)を設けるなど、ラウンド形の時計をコンテンポラリーに解釈したデザインを特徴とし、今年のローンチに合わせて3針からミニッツリピーターまで13型を発表。今後の基幹コレクションとなることがうかがえる。写真の3針モデルは、駆動時間が70時間に伸長された新開発ムーブメントを備える。
■シンプルにして別格。語りたくなる時計の代表格
ショパール「L.U.C XPS ツイストQF」
腕時計の性能を示す認証制度はいくつかあるが、そのうち最も厳格なものがカリテ フルリエである。認証の条件は、COSC認証を取得していること、耐久性および信頼性の試験と24時間着用状態の精度試験をパスすること、高級時計の基準を満たす装飾が施されていること、そして100%スイス製であることと多岐に及ぶ。このカリテ フルリエ認証モデルを最も多く製造しているのがショパールだ。今年は同認証を取得し、さらに自然環境に配慮し、健全な労働環境で採掘されたエシカル(倫理的な)ホワイトゴールドをケースに使用したモデルを発表。内部機構、素材ともに、独立性を保ったファミリービジネスならではの信頼が見て取れる。
■日本発、世界レベルのクール&ビューティー
グランドセイコー「エレガンスコレクション SBGY002」
ぜんまいがほどける力を動力としながらクオーツ式の調速機構を備え、機械式以上に滑らかな針の動きとクオーツ並みの高精度を両立したスプリングドライブ。世界で唯一、セイコーだけが持つこの駆動機構が今年誕生20周年を迎え、新型のスプリングドライブキャリバーが2種発表された。写真の18Kイエローゴールドモデルに搭載されたキャリバー9R31は、手巻きでありながらパワーリザーブが72時間に向上された。精度は平均月差プラスマイナス15秒。雪面のような精緻な凹凸が掘られたダイヤルの上を秒針が滑らかに進むさまには情緒的な美しささえ漂う。
■優美さと格調を生むレクタンギュラーの新風
モリッツ・グロスマン「コーナーストーン」
2008年、ドイツ・グラスヒュッテに誕生したモリッツ・グロスマンは、19世紀に活躍した同名の時計師の作品に着想を得た時計づくりを特徴とする。今年は同ブランド初となるレクタンギュラー形(長方形)ケースの新コレクションが登場。アールデコを踏まえた優美かつ格調高いフォルムが特徴で、内部にはこのコレクション用に新開発された長方形キャリバーを搭載する。バネを用いた新設計のストップセコンド機能付きで、パワーリザーブは約60時間。写真はグランフー・エナメル・ダイヤルを備える限定モデル。ブラウンバイオレットカラーの時分針が、温かみのあるダイヤルに美しく調和する。
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