2004年、スポーティー・エレガンスをコンセプトとして「オシアナス」ブランドが立ち上がる。3年後の2007年、オシアナスのエレガントさをより強調した「オシアナス マンタ」シリーズが誕生する。今年はオシアナス・ブランドが立ち上がってから15年の節目となり、先ごろ発売となったオシアナス マンタ「OCW‐S5000」は、この15年の一つの集大成だという。その開発の中心となったのが、佐藤貴康さん(商品企画)、白石俊也さん(デザイン)、黒羽晃洋さん(モジュール開発)の3名。彼らが語る、ビジネスパーソンにこそ薦めたい理由とは――。

働く男にとって「薄型」のメリットとは?

――「OCW‐S5000」は、オシアナス史上最もビジネスユースに適した時計だと伺いました。その理由はどこにあるのでしょう?

【佐藤さん(以下、佐藤)】最大の特徴が、薄型であることです。オシアナス マンタ(以下、マンタ)は誕生時からスリム、エレガンスというテーマでした。デビュー15周年でその原点に帰るとともに、既存モデルの薄さを超越するものというコンセプトで開発が始まりました。

同じ機能を持つ既存モデルから2.2mm薄くして、ケース厚9.5mmという薄型時計となった

――薄型時計というのは、ビジネスパーソンにとってどんなメリットがありますか?

【佐藤】まずは手首へのなじみがよく、着用時にストレスを感じにくいことです。見た目でいえば、シャツの袖口に収まり、スタイルをスマートに見せてくれます。スーツや上品な格好にはとてもよく似合います。

――ケースの薄型化の開発は昔から行われてきました。ただ、近年は技術力の誇示のような側面もあり、数値に固執している感もある。薄さの先に何を求めたのでしょう?

【白石さん(以下、白石)】マンタでは「美しさ」を求めました。薄型時計は、デザイン的に淡白に見えてしまうことが多い。でもマンタでは、そのようにならないようフォルム・シルエットからパーツ構成と細部に至るまで吟味しました。3Dプリンターで30回以上モックアップ(模型)をつくって検証しましたね。

メタル部分をサテンとポリッシュで磨き分け、奥行き感のあるデザインに仕上げている

――開発初期から薄さの数値目標があったのですか?

【佐藤】10mmを切るという目標がありました。既存品で同じ機能を搭載しているものでは、11.7mmというのが一番薄かった。そこから2.2mm薄くして9.5mmになった。マンタらしさを無視すればもっと薄くできたのですが、それでは意味がないので。

【白石】マンタは風防がカーブした伸びやかなデザイン。これをフラットにすればもう少し薄くできますが、エレガントさがなくなってしまう。

【黒羽さん(以下、黒羽)】それと機能性です。機能を確保したまま薄くするというのが目標でした。

多機能はオシアナスのマスト

――機能を省くことは許されなかった?

【佐藤】そこがビジネスパーソンに薦める二つ目の理由です。薄型なんだけどビジネスで必要な機能は備えている時計を目指したのです。

【黒羽】ケースの厚さで10mmを切るには、モジュールはだいたい3.5mm厚くらいに収めなければなりません。そのサイズの制約の中で、Bluetooth®搭載電波ソーラークロノグラフを実現するために多数の部品を組み込む必要がある。今回は長期の開発期間を設け、厚さのネックとなるパーツの見直しを行い、それらの配置も刷新しました。

――GPS受信機能は搭載されていないのですね?


【佐藤】今回も含めて、マンタではGPS受信機能を外しています。GPSは時計単体で時刻補正ができる素晴らしい機能ですが、モジュールがまだ大きくスペースを取ってしまう。

モジュール開発担当の黒羽晃洋さん(左)と商品企画の佐藤貴康さん(右)

――薄型化の障壁になるということですね。

【佐藤】それと、現代のビジネスパーソンであれば大半はスマートフォンやタブレットを持っています。今回の時計にはモバイルリンク機能が搭載されていて、Bluetooth®を介して世界約300都市の時刻に補正できる。モバイルにアプリが入っていれば、時計のプッシュボタンを一度押すだけで現在地の時刻に補正され、サマータイムにも対応しています。この機能があればグローバルなビジネスにも対応できるという確信があります。

――デュアルタイム表示はビジネスパーソンのニーズが高い?

【黒羽】そうですね。海外出張が多い方、時差のある海外の方と頻繁に連絡をやり取りされる方には特に好評です。その設定を簡単にできるモバイルリンク機能は、積極的にオシアナスに搭載するようにしています。

――クロノグラフについては? ビジネスで使ったことはありませんが……。

【佐藤】クロノグラフについてはカシオがプライドを持っているという部分もあります。カシオのものづくりのポリシーに、ゼロからイチを生むという考えがあって。じつはオシアナスの立ち上げも、当時、世界初となるフルメタルの電波ソーラー式クロノグラフをつくることから始まっている。最先端のエレクトロニクスで時計をつくるという発想があります。

【白石】オシアナスの時計はクロノグラフ機能に加え、ワールドタイムや日付・曜日の表示等を搭載しており、その多機能を分かり易く使いやすくするためにもクロノグラフのデザインは有効です。

デザイナーの白石俊也さん(右)は、15年前のオシアナス立ち上げ時からデザインを手がける

――確かにクロノグラフは付いていると嬉しい、男性にファンの多い機能ですよね。

【黒羽】弊社では超小型モーターの開発に力を入れており、そのおかげでさまざまな機能を適正サイズで提供することができる。 多くのパーツを高密度で実装するというのがカシオのモジュールの基幹技術なので、そこを感じてもらえると嬉しいですね。

――ほかにビジネスパーソンにお薦めするポイントは?

【佐藤】最初の話と関係しますが、薄くなって着け心地もさらに良くなりました。

【白石】着用感の部分では、今回はケースとバンドをダイレクトにつなぐ構造にしました。これによりバンドの可動域が広がり、よりぴったりフィットするようになった。手首を動かしてもほとんどズレません。もう一点、バンドの長さを3mmほど調整できるバックルに変えました。コマ詰めではできなかった微調整ができ、より高いフィット感を得られようになりました。

平面構成を特徴とするブレスレットはシャープな印象

――デザイン面についてはいかがでしょう? どんな人に着けてもらいたいですか?

【白石】腕時計は機能も重要ですが、それを超える価値があると思っています。ステータス性やデザイン性、ファッション性なども重要です。ただ、あくまでも時計の本質を踏まえた上でそれらをつくりたいと思ってきました。そうした考えから、今回は薄型からくる使い勝手の良さを最大限発揮しつつ、かつお洒落であるということを目指しました。それは薄さを生かしたスマートなお洒落さです。腕周りをスッキリ見せながらも近くで見ると美しさやつくりの良さを感じる、そんなクールな時計にも仕上がったかなと思います。

【佐藤】服装に気を使っている人、お洒落な感覚を持っている人ですね。

【白石】ビジネススタイルもカジュアル化が進んでいるので、そういった方にもお薦めしたいと思います。スマートさが逆にアクセントにもなると思いますので。

【黒羽】志向の面でもグローバルに活躍したい人に着けてほしいですね。

ブルーも薄型もすべてはエレガンスのため

――最後にオシアナス・ブランドについて伺います。そもそも15年前にどのようにしてブランドが立ち上がったのでしょう?

【白石】アナログ式の時計を、本格的に展開しようというところから始まっています。それからクロノグラフに着目して、当時クロノグラフというとスポーティーなデザインが大半でしたが、そこにエレガンスを入れたスポーティー・エレガンスのクロノグラフをフルメタルでつくろうとなりました。

――オシアナスというネーミングは?

【白石】ギリシャ神話の海の神、オケアノスに由来しています。ダイバーズではないのですが、海のイメージを持ったブランドとして始まった。なので、ロゴマークは海の波がモチーフです。じつは、価格帯も機能性も異なりますが、その前からオシアナスというブランドを海外で展開していて、それをベースに日本で始めることになりました。

――ブルーを使うアイデアは最初からあったのですか?

【白石】ありました。でも当時の青は印刷が一般的で、それだとスポーティーに見えてしまう。それを印刷ではなく蒸着技術で輝きのあるブルーを表現したところ、エレガントになって好評を得ました。

【佐藤】青はエレガンスの表現の一つでした。そして新しいエレガンスの表現として薄型につながっていきます。

青にこだわるオシアナス。今回のモデルに最適な青に仕上がるよう、色味・輝き方について何十種類も試作を繰り返した

――それが2007年にデビューしたマンタですね?

【白石】そうです。海外ブランドではエレガンスの一つの手法として薄型があった。それとカシオの高密度実装、つまり薄く小さくする技術の親和性が高いのでそこを突き詰めようとなり、マンタが誕生しました。

――オシアナス立ち上げから15年、転機となったことを挙げるとすれば何でしょうか?

【佐藤】やはり青ですね。デビュー当時は他社さんには青を使ったモデルがあまりなくて、その点で新しい価値を生み出した。それ以来、青の表現にはとてもこだわってきて。オシアナスといえば青と思ってもらえるようになってきたのはうれしいことで、それはきれいな青だねと言われるモデルをつくり続けてきた努力の賜物だと思います。

――ただ、これだけ青のイメージがつくとほかの色は使いにくいですよね?

【白石】確かにそうですが、じつは狙いもあって。われわれはアナログ時計では歴史が浅いメーカーです。ぱっと見て覚えてもらうために、プロダクト商品では珍しいとは思いますが、カラーブランディングをやってきました。ずっとブルーを使い続ける。ブランドイメージを聞かれたら、ブルーと答えます。ブルーの時計といえばオシアナスと言ってもらえるようになるという狙いが、最初からありました。

マンタの歴代主要モデル。左から、ファーストモデルの「S1000」、マンタで初めて大きくブルーを使った「S1400」(以上生産終了)、6モーターを搭載して操作性を高めた「S3000」、モバイルリンク機能を備えた「S4000」(切子ベゼルモデル)、そして最新作の「S5000」

――今後も青を使っていく?

【白石】メインは青です。ただ青はエレガンスの表現の一つなので、これ以外の表現手法も探していきます。いま力を入れているのがストーリー性のあるエレガンス。ただ格好いいだけではなくて、こんな意味や背景があって格好いいんだと思ってもらえるもの。その一つが昨年発表した、切子の技術を生かしたモデル。オシアナスデザインと職人さんの技術の融合というストーリーがあるから格好いい、お洒落なんだなと。そこまで踏み込んでデザインしていきたい。

――ほかのお二人は今後どんなブランドにしていきたいですか?

【佐藤】エレクトロニクスを駆使した独自の世界観で、ユーザーに求められるものをつくっていきたいですね。青で新しい価値を生み出したように、別の価値をつくってブランドを大きくしたい。一つの目標となるのが世界進出。夢は世界中の人にエレガントな時計だと思われるブランドになることです。

【黒羽】同じくグローバルに周知されるブランドになりたいですね。私の立場からは、モジュールからエレガントさに貢献したい。例えば文字盤の下にはソーラー時計の発電には欠かせないソーラーパネルが配置されています。弊社では遮光分散型ソーラーパネルという独自技術を用いた高効率のソーラーパネルを採用しています。少ない光量でも十分な発電ができるため、光の遮蔽物となる文字盤上のパーツを大きくできたり、デザインの自由度も高まります。また、さらなる薄型化でエレガンスを表現するためには、電池のサイズがネックになってくるので、より小型の電池でも駆動できる低電力モジュールを実現したいです。

――まさにエレガンスのためのテクノロジーというわけですね。老舗が並み居る時計業界ではカシオは新鋭と言わざるを得ませんが、だからこそこれまでとは全く異なるアプローチで何か新しいことをやってくれるような期待感があります。青、薄型に続く新しい価値創造を楽しみにしています。本日はどうもありがとうございました。

問い合わせ情報

問い合わせ情報

OCEANUS

カシオ計算機

direction & text:d・e・w
photograph:Shoichi Kondo(watch),Kazuma Okita(interview)