苦しくない衿型、ノータイ用の衿型

顧客の体型を採寸して、その人だけの型紙をつくり、裁断、縫製、フィッティングを経て1枚のシャツを仕立てる。フルオーダーのスーツと同じようなプロセスでオーダーのシャツをつくるのが、南シャツの南祐太さんだ。

南さんのキャリアはシャツの縫製工場に始まる。主に百貨店などで販売されるシャツを縫製していた時に、シャツづくりの面白さに目覚め、縫製だけでなく型紙の製作や裁断、採寸までを習得。その後独立して、南シャツを立ち上げた。

南シャツの南祐太さん。東京・日本橋にフィッティングサロンを構える

南シャツの特徴は、「ハウススタイルを持たないこと」だと、南さんは話す。

「スーツに合わせるシャツをつくることが多いですが、カジュアルシャツもつくります。そのため、うちのスタイルはこれです、と決めるよりも、お客さんの要望を引き出して具現することを心がけています。これはテーラーの原点だと思うのですが、その伝統を守りつつ、一方で古いものに縛られないように、新しいものを吸収していく。ルールを決めるのではなく、それを壊して新しいものに取り組んで、シャツの楽しさを広げたいですね」

古いものを知った上で、新しいものを生み出す。そうしたものづくりの一つの現れといえるのが、南シャツ独自の衿型である。じつはシャツづくりを始めたころ、南さんはネクタイが嫌いだったという。首周りが苦しい感じがどうも苦手だった。

写真右が、衿元がやや下がった南シャツ独自の衿型

そこで南さんは、ネクタイを締めても苦しさを感じにくい衿型の研究を開始。できたのが衿元をやや下げて、喉仏よりも下にくるような衿型である。この衿型をベースに、喉仏の位置や大きさ、傾斜に合わせて微調整することで、ネクタイを締めても快適なシャツを生み出した。また、クールビズの普及から、ボタンを外しても衿がぴんと立つ衿型も作製。これらの独自の衿型が南シャツの人気の理由の一つになっている。

オーダーシャツのメリットとは?

ビジネスウエアの中で、スーツや靴はまだしも、シャツまで仕立てる人はそう多くないだろう。既成品であれば数千円のものもある中で、オーダーシャツならではの魅力、ビジネスパーソンにとってのメリットとはどんな点にあるのか。南さんに尋ねた。

「オーダーメードと聞くと、みなさんハードルが高いと思われます。確かにスーツですと値が張りますが、シャツの場合、うちだと国産の生地でしたら2万円程度からある。特に贅沢品ではなく、頑張れば手が届く価格です。ひとまずシャツでオーダーの満足感を味わってもらい、そこからスーツに進んでもらえれば。オーダーメードのエントリー的な位置づけですね」

「一緒につくるをする楽しさをオーダーシャツで味わってほしい」と話す

シャツは肌に最も近いウエアであるため、サイジングが特に重要である。その点、自分にぴったりのサイズに仕立ててくれるのはオーダーならではのメリットであり、装いに対する自信にもつながるだろう。

「予算に少し余裕があれば、オーダーにしかない上質な生地も選べます。その生地で仕立てたシャツを肌着なしで着てもらうと、本当に気持ちいい。一度それを実感してもらうと、オーダーシャツの違いがわかってもらえると思う。それと、先ほどの衿型を含めて、ディテールを自分好みに仕立てられる点ですね」

ディテールに関して最近多く聞かれるのが、腕時計と袖元の関係だという。

「薄い時計、厚めの時計、形も丸形、角形などいろんなデザインがある上に、時計をシャツの袖に入れたい人、出したい人、半分くらい入れたい人など、本当に人それぞれで複雑。うちでは袖周りを手首ぴったりにつくることが多いけど、時計を入れたい場合は、時計をつけるほうの袖だけ少し大きめにつくったり、ボタンの位置を変えたりして、その方の希望に合わせるようにしています」

袖を折り返す南さんのスタイル。この時計は数十年前のシチズンのもの

南さんご自身は、というと、袖元を折って時計を出しているという。こうすると袖周りを手首ぴったりにつくりながら、時計に干渉することなく着られる。先述の衿型と同じように、袖元に関しても新しいスタイルを研究してたどり着いたようだ。

「一般的に、ジャケットの袖から1cm程度シャツが見えるのが美しいとされている。それを知った上で自分なりにアレンジするのは、誰と会うか、どんな場面なのか、というTPOさえ踏まえれば、着こなしの一つだと思います」

正統派スタイルに薄型時計を薦めるわけ

「このような時計でしたら、シャツはいかようにもできますね。シャツとの相性がすごくいい時計です」

南さんがそう言って手にするのが、シチズンの「エコ・ドライブ ワン」である。いまから40年以上前の1976年、シチズンは定期的な電池交換を不要とし、光で発電する駆動システム「エコ・ドライブ」を発明。以降、効率化や小型化を図り、誕生から40年の節目となった2016年、厚さ1.00mmのエコ・ドライブムーブメントを新たに開発。ケースの厚さも2.98mm(設計値)の極薄のエコ・ドライブ ワンを発表した。

「前向きな姿勢に刺激を受けます」とシチズンの時計づくりに好感を示す

「これだけ薄いと、袖周りをかなりタイトにつくっても袖元に時計を入れることができます。袖周りがだぼつかず、それでいて時計を収めることができるので、美しい手元になる気がします。また、時計で袖が擦れて破れてしまうという問題もよくあるのですが、この時計ならその心配もいりません」

さらに、正統的なビジネススタイルにもふさわしい時計だと評する。

「先ほどのTPOの話とつながりますが、目立つ格好と目立たない格好を考えると、目立つのは自分のため、目立たないのは相手に不快な思いをさせないという、自分と相手を踏まえた判断。そう考えると、ビジネスの重要な場面や、目上の人に会う場面では時計も控えめなもの、そして袖元に収まっているほうがいい。正統派のスーツスタイルならなおさら、時計は隠れているほうが美しく見えます」

袖口がタイトにつくられた南さんのシャツにも収まるエコ・ドライブ ワン

2019年のエコ・ドライブ ワンの新作では、ブレスレットが従来品よりも薄く改良された。薄型時計というとレザーストラップを合わせたものが多いが、快適性の面でブレスレットを好む日本人は少なくない。その点、「このエコ・ドライブ ワンは薄型でメタルブレスレット、いいとこ取りの時計」と南さんも太鼓判を押す。

最後に、このエコ・ドライブ ワンに似合うシャツを、という“オーダー”をしてみた。返事はまさにテーラーならではの、目からウロコの提案だ。

南さんが提案するダブルカフスとの組み合わせ。カフリンクスのオニキスとの相性もいい

「40代、管理職で、この時計が似合う方なら、ダブルカフスを提案しますね。一般的にダブルカフスは時計が入りにくい。厚い時計はまず入らないし、突起があると引っかかってしまう。でもこのエコ・ドライブ ワンならすっと入ります。カフリンクスとのコーディネートを楽しんで、例えばオニキスと合わせてもいいし、ピンクゴールドカラーでもいいですね」

日本人は躊躇しがちなダブルカフスという新しさの提案は、さすがファッションに精通したテーラーだ。華やかなシーンやドレスアップの際に着用することが多いダブルカフスのお洒落感には、エコ・ドライブ ワンのような薄型のエレガンスがよく似合う。

シチズン「エコ・ドライブ ワン」。薄さ1.00mmの光発電エコ・ドライブムーブメントを載せてケース厚2.98mm(設計値)を実現したモデル。2019年新作ではブレスレットの薄型化が図られた。こちらはケース、ブレスレットをデュラテクトDLCでブラックに加工したモデル。ケース、ブレスレットはステンレススティール(デュラテクトDLC)、ベゼルはサーメット。ケース径39mm。光発電エコ・ドライブ。43万円(税別)写真/シチズン
シチズン「エコ・ドライブ ワン」。ステンレススティールに表面硬化処理を施したモデル。ともにケース、ブレスレットはステンレススティール(デュラテクトα)、ベゼルはサーメット。ケース径39mm。光発電エコ・ドライブ。40万円(税別)写真/シチズン
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photograph:Hisai Kobayashi