この時計は、こんな男を物語る
・目立つことより実直さが取り柄
・機能的な美しさに引かれる
・物事の本質を見極めようとする
基本的な価値を追求すると、腕時計はこれほど美しくなる
IWCの腕時計はどれも「時計らしい」顔つきをしている。現在、IWCには6つのレギュラーコレクションがあるが、いずれもダイヤルデザインは端正であり、視認性に優れる。21世紀になったころから高級時計の世界は個性重視の時代へと突入し、各ブランドあの手この手で新しさを競い合ってきた。その中で、時刻を表示するという時計本来の役割から逸れることなく、時代の空気を感じ取って各コレクションをブラッシュアップさせてきたのがIWCである。複雑機構をつくる時計技術はあれどもそれを仰々しくひけらかすこともなければ、見た目の派手さ・華やかさで耳目を集めるような浮ついたところもない。硬派なファインウォッチメーカーという印象だ。
そうしたIWCのフィロソフィーは、今年リニューアルを果たした主要コレクション「ポルトギーゼ」にもよく現れている。ポルトギーゼといえば、時計愛好家の間では「大型時計の祖」として知られるが、それも奇をてらったものではなく、正当な理由からだった。
事の起こりは1939年。IWCは、ポルトガル人の時計商から「マリンクロノメーター級の高精度な腕時計がほしい」という依頼を受け、そのリクエストに応えるために懐中時計用の大型ムーブメントを載せた腕時計を製造する。当時、IWCはすでに腕時計用の小型ムーブメントを製造していたものの、精度や安定性の面では懐中時計用のムーブメントが優れていたためだ。これが現代のポルトギーゼの起源となる。
こうして誕生した腕時計は精度面では優れていたものの、そのケース径は当時の標準的なものより10mm近く大きかった。あまりの大きさゆえに広く人々に受け入れられることはなかったが、それからおよそ半世紀後の93年に転機が訪れる。IWCの創業125周年というアニバーサリーを迎えたこの年、初代ポルトギーゼの復刻モデルを発表すると、時計愛好家らから熱烈な支持を獲得。これを機に現在につながるコレクション化の道を歩むことになった。
その後90年代半ば以降は、このポルトギーゼが引き金になったかのように大型時計が市場を席巻し始めた。それらの中にはデザインや存在感を過剰に主張したものも少なくなかったが、しかしながらポルトギーゼは初代モデルのDNAを忠実に踏襲し、広々としたダイヤルに長めのリーフ針という視認性重視の基本デザインは一切変えていない。精度や視認性という時計の基本的な価値を追求することが、ポルトギーゼの根幹を成すアイデンティティーなのである。
今年のIWCの新作発表は、このポルトギーゼのリニューアルがテーマとなった。最大の変更点は新作すべてに自社製ムーブメントが搭載されたこと。シンプルな3針から、IWCの象徴的な機構であるパーペチュアルカレンダーといった複雑時計までそろうフルコレクションとなる。ここで取り上げたのは、正確性や安定性に優れるコラムホイール式のクロノグラフ・キャリバーを搭載したモデル。2つのカウンターもことさらに主張することなく、あくまでも時刻表示に重きを置いた顔つきが端正でいて潔い。
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IWC
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