パイロット・ウォッチで名を馳せるブランドはいくつかあるが、中でも多彩なラインアップを有するのがIWCである。一昨年の2019年には、イギリスの“英雄”的な戦闘機へのオマージュである「スピットファイア」、飛行家であり作家であったアントワーヌ・ド・サンテグジュペリの代表作『星の王子さま』をモチーフにした「プティ・プランス」、そしてアメリカ海軍戦闘機兵器学校(トップガン)の特殊プログラムに由来する「トップガン」という3つのシリーズのリニューアルを行った。
それらに続き、今年はその名の通り大型の「ビッグ・パイロット・ウォッチ」と普遍的なデザインの「クラシック」から新作が登場した。中でも注目したいのがクラシックシリーズから登場した「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ 41」である。
見た目の大きな変更点は、ケース径がサイズダウンされたことだ。既存モデルは43mmだったが新作では41mmとなり、普遍的なデザインも相まってさまざまなシーンで、例えばオン・タイムのスーツやジャケットにも合わせやすいモデルとなった。ここではブルーダイヤルを取り上げたが、IWCでは珍しいグリーンダイヤルが加わったこともトピックだ。
ケース内部には、IWCの自社製新型ムーブメントが搭載された。近年のIWCはムーブメントの内製化を着々と進めており、このモデルに搭載されたキャリバー69385もその流れの中にある。クロノグラフの作動方式には操作性に優れるコラムホイール式を採用し、その伝統的なメカニズムをシースルーケースバックから眺めることができる。何より、自社製ムーブメントのメリットは、そのブランドが存続する限りどんなトラブルにも対処してくれることにある。長年使用できる機械式時計だからこそ自社製ムーブメントを、というのも賢明な考え方だ。
さらにもう一つ、ユーザーにとってうれしい改良が施された。パイロット・ウォッチでは初となるストラップの簡易交換システム(EasX‐CHANGEシステム)が採用されたことだ。これにより特殊な工具を用いることなく、自分自身でストラップやブレスレットの付け替えが可能となった。
パイロット・ウォッチとは、端的に言えば航空機の操縦士のために最適化された機能時計である。同じく機能時計であるダイビングウォッチとは違って、パイロット・ウォッチには準拠しなければならない国際規格はないが、主な要件を挙げるなら、視認性、耐衝撃性、そして耐久性といったところだ。これらはすなわち、IWCの時計づくりの根幹を成す理念だと言っていい。
IWCの時計は、みな潔い顔つきをしている。時計の本質から逸れるようなクリエーションはなく、ちゃらちゃらと浮ついたところがない。高度なメカ技術を持ちながらそれをことさらに吹聴することのない、職人のような気質がある。それこそが、昔から硬派な時計好きに支持されてきた理由である。IWCの時計を着けるということは、まさにそうしたパーソナリティーの表現となるだろう。もちろん、パイロット・ウォッチ特有のアクティブネスをシンプルに楽しむのもいいけれども。
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