トレンドよりも高精度を求めた「ポルトギーゼ」誕生逸話

高級時計の世界に足を踏み入れると、誰しもが一度は魅了されるようなモデルがいくつかある。とりわけデザイン好きやプロダクトに一家言ある男たちの心をつかむのが、IWCシャフハウゼンの「ポルトギーゼ」だ。“ポルトギーゼ(ポルトガル人)”と曰くありげに名付けられたこの時計ほど、IWCの歴史が詰まり、ブランドの哲学が息づく時計はないように思われる。

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スモールセコンドとパワーリザーブ表示を備えた「ポルトギーゼ・オートマティック」。機能的には時刻・日付表示のシンプルウォッチだが、それで終わらないのがIWC。7日間というロングパワーリザーブが機械技術のレベルの高さを物語る(製品情報は下部参照)

改めてポルトギーゼのルーツをたどるならば、今から90年近く前にさかのぼる。1930年代半ば、IWCは2人のポルトガル人時計ディーラーから、マリンクロノメーター(航海用精密時計)のような高精度の腕時計を制作してほしいとの注文を受ける。

そのころすでにIWCは高精度の懐中時計の製造で世界的な名声を獲得しており、発注者はその技術力を買ったのだ。当時は小ぶりでアールデコスタイルの腕時計が流行する時代。小型のムーブメントを載せることもできるが、しかしながら時計のムーブメントは小型になるほど精度や信頼性で劣ってしまう。

IWCの出したソリューションは、当時納入していた英国ロイヤルネイビーのデッキウォッチ(甲板時計)からやってきた。デッキウォッチは航海用計器であるから、精度と共に視認性が求められる。シンプルなチャプターリングやインデックス、読みやすいアラビア数字、細いリーフ針……。こうしたデザインは以後、踏襲されることになる。こうして41.5mm径のハンター式懐中時計ケースに大型の高精度ムーブメントを収めた第1号の「ポルトギーゼ」が完成する。1939年のことだ。

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レッドゴールドケースにスレートグレーのダイヤルを合わせた、程よい華やかさの「ポルトギーゼ・クロノグラフ」。縦に並んだ2つのカウンターはクラシックな雰囲気も醸し、優雅でスポーティーという独特のテイストが際立つ(製品情報は下部参照)

懐中時計であれ腕時計であれ、時計の本質は精度にあると考えるポルトガル人ディーラーと、トレンドとは一線を画し生真面目にわが道を行くIWCが出会わなければ、ポルトギーゼは生まれていなかっただろう。後世語り継ぎたくなるようなこのエピソードを掘り起こして、IWCは1990年代にポルトギーゼをレギュラーコレクション化する。その頃の腕時計の常識からしても大ぶりだったポルトギーゼは瞬く間に時計好きたちの耳目を集め、その後“大型時計ブーム”を巻き起こすきっかけとなっていくが、歴史をひもとけばそれは精度追求という確固とした理由があり、必然性があったのだ。

“ファインウォッチメーカー”と称される理由

このポルトギーゼ誕生のエピソードが物語るように、IWCというウォッチブランドはつねに時計の精度・性能を求め続けてきた。ここで取り上げたモデルに搭載されている自動巻きの双方向巻き上げ機構や、一体型の永久カレンダー機構もしかりだ。前者はそれまでのぜんまいの巻き上げ効率を飛躍的に高めるとともに耐久性も向上させた。後者は月、曜日、日付のすべてのカレンダー表示の調整がリュウズ一つで可能になり、操作性の向上に大きく寄与した。共に誕生から数十年経た今なお、現行品にも採用される画期的なメカニズムである。

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IWCの歴史的な機構である永久カレンダーを搭載した「ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー」。月、曜日、日付、うるう年の表示が2100年まで調整不要。577.5年間は修正不要という超高精度のムーンフェイズも備わる。年号を西暦4桁で表示する機構もIWCならでは(製品情報は下部参照)

一方で、IWCがつくる時計はいずれもその顔つきが時計然としている。時計の役割は時刻を正しく表示することだと言わんばかりに視認性を重視し、内部機構をひけらかしたり新奇さで耳目を集めるような軽薄さはない。一時の流行りやトレンドに流されることなく、いつも、この上ないほど実直だ。こうした揺るぎないフィロソフィーこそが、時計のプロや関係者から「機械技術に優れた実直なファインウォッチメーカー」という支持を得る理由であり、一般の時計好きたちの心を引きつけてやまない理由であろう。

スイス製をはじめとする高級機械式時計が再興なって数十年、いまや腕時計は時刻を知るためのタイムツールという役割を超えて、自らの人となりを示すシンボリックなアイテムとしての性格も色濃い。着け手の信頼感をさりげなく高めてくれる時計があるとすれば、ポルトギーゼは間違いなくその代表的なモデルに入る。

問い合わせ情報

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IWCシャフハウゼン
TEL:0120-05-1868

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photograph:Shoichi Kondo