“撮りたい!”という衝動に駆られるほど美しい

神は細部に宿る――ディテールにまで妥協なくこだわってこそ、全体として完成度の高い素晴らしいものが生まれる――。20世紀のモダニズム建築を代表するドイツの巨匠、ミース・ファン・デル・ローエが残した言葉としてあまりにも有名だが、高級時計のクリエーションにおいてもまた同じことが言える。わずか40mm程度のケースに多数のパーツが収まる腕時計においては、ディテールのクオリティーを追求せずしてプロダクト全体の美しさは獲得できないと言っていい。

「高級時計を撮影し始めたのは20年くらい前になりますけれど、その頃からIWCの時計はディテールがきれいだと思っていました」

そう振り返るのは、雑誌や広告業界の第一線で活動するフォトグラファーの岡村昌宏さん。25年ほど前にフォトグラファーとして独立し、車や腕時計といったプロダクトから国内外の景観や建築、そして著名人やファッションモデルといった人物まで、ジャンルを問わずに美しい写真の数々を撮影してきた。編集者やディレクターたちからの信頼も厚く、腕時計に関しては現在も年に30ブランド以上の撮影を行う。

2本の時計正面
今回、フォトグラファーの岡村昌宏さんがセレクトしてくれたIWCの“特に美しい”時計2モデル。共にシンプルなデザインでありながらその魅力は単純にあらず、奥深いディテールの世界を教えてくれるモデルだ。(左)「ポルトギーゼ・クロノグラフ」。ステンレススティールケース。ケース径40.9mm。自動巻き。3気圧防水。アリゲーターストラップ。95万1500円/(右)「ポートフィノ・ハンドワインド・エイトデイズ」。18Kレッドゴールドケース。ケース径45mm。手巻き。3気圧防水。サントーニ社製アリゲーターストラップ。228万8000円(共に税込)

IWCの時計はディテールが美しい――。フォトグラファーとして独立後、多くのブランドの時計を撮影する中で岡村さんが感じていたこの印象が、印象から事実へと変わるきっかけがあったという。

「車も建築も風景も、どんな被写体であろうと美しいものに引かれますし、フォトグラファーとしてはつねにそれらをより美しく撮りたいと思っています。高級時計も同様に、撮影を重ねれば重ねるほどそれぞれの精緻な美しさをもっともっと表現したいと思うようになってきました。それでたどり着いたのがフェーズワン(PHASE ONE)というカメラです。現在使用しているフェーズワンは画素数が1億以上で、センサーサイズも通常のフルサイズ一眼レフカメラの2.7倍という世界最高峰の画質を有する機種。このカメラでIWCの時計を撮影して、とても驚きました」

腕時計を構成する極小のパーツや精緻な仕上げにズームして寄っていっても、画質が粗くなることがなく、どこまでも鮮明に写し出す。超高解像度ゆえに、それまで見えていなかったミクロの世界が見えてきた。

「針やインデックスの絶妙な膨らみや、その膨らみが生み出す陰影のグラデーション、根本から先端までバリ(凹凸)がなく一直線に延びる針、ダイヤルのギヨシェ装飾の上に施されたプリント、ヘアラインとポリッシュを組み合わせたケースの仕上げ、ラグからリュウズ側にかけての流れるようなフォルム……。IWCの時計は、どこをとっても部品精度の高さが素晴らしかったのです。フェーズワンはとてつもないクオリティーで写ってしまうので、一般的な一眼レフカメラと比べると撮影する時の緊張感がとても高く、すべてがシビアなのですが、そのフェーズワンで撮りたくなる時計、撮っていて楽しい時計です」

時計斜めから
岡村さんが選ぶIWCの美しいモデル。まずは、ブランドの代名詞のようなモデルとなっている「ポルトギーゼ・クロノグラフ」。腕時計の王道のような正統的なデザインを特徴とするが、「シンプルさ故にディテールの美しさが際立つ」という
時計盤面アップ
ポルトギーゼ・クロノグラフのダイヤルのアップ。リーフ針の滑らかさ、インデックスの美しさなど、部品精度の高さには目を見張る。多くのブランドの時計を見てきた岡村さんは「IWCと同じような価格帯の時計でこれほどの作り込みはまず見ない」と言及する
時計ケース側面アップ
ケースのデザインもまた岡村さんが注目する部分。「ラグからケースにかけての膨らみ、そしてラグの緩やかな落ち込みに色気のような美しさを感じる」。ポリッシュとヘアラインの仕上げを使い分け、奥深い表情を与えている

そうしたディテールの美学はまた、ブランド全体に通底する品質基準の高さを物語る。

「ポルトギーゼやポートフィノといった、レギュラーコレクションの定番モデルでこの美しさという点がまたすごいと思うんです。どういうことかと言うと、このクオリティーがIWCのスタンダードということ。ハイエンドなモデルや限定モデルなどの一部のモデルだけではなく、すべてのモデルでこの品質を貫いていることに驚きます。IWCのように規模が大きく、高級時計の世界では比較的手が届きやすい価格帯のブランドとしては、極めてまれだと思います」

時計斜めから
岡村さんが選ぶもう一本は、クラシカルなデザインを特徴とする「ポートフィノ」。「細みのラグやケース全体のフォルムがエレガントで本当に美しい」と説く。このモデルは8日間というロングパワーリザーブを有する「ポートフィノ・ハンドワインド・エイトデイズ」
時計盤面アップ
上写真の針部分にズームしたビジュアル。根本部分にボリュームをもたせた独特の形状、視認性を考慮して施された先端の曲げ加工など、ポルトギーゼのリーフ針に見劣りしない美しさ。天面や端部に丸みをもたせたアプライドインデックスの意匠も目を引く

IWCシャフハウゼンは、スイスの高級時計ブランドとしては珍しく、ドイツとの国境近くの街シャフハウゼンで1868年に創業したウォッチブランドである。創業者のフロレンタイン・アリオスト・ジョーンズは近郊を流れるライン川に着目し、水力発電による安定した電力を時計製造に活用。旧来の手作業による時計作りを刷新し、高品質の時計を安定的に生産することで世界的な名声を獲得していった。新しいことに積極的に取り組む進取の気性、そして高品質であることは、創業時から変わらないIWCのフィロソフィーとなっている。

「スイスの時計ブランドの多くがフランス文化の影響を受けているのに対して、IWCにはドイツ的なものづくりや、バウハウスの空気を感じる部分があります。機能重視でありながら時計全体のバランスが美しく、それでいて華美ではない。シンプルな中に美しい曲線が入ることで、とても洗練された時計に仕上がっていると思います。その源泉となっているのがディテールの美しさ。細部に至るまで貫徹されたクオリティーの高さは、撮影したいという欲に駆られますね」

車にしろカメラにしても、工業製品でありながらもディテールの美しさに磨きをかけて、実用性と美しさ、いわば機能美を突き詰めたのがドイツ・プロダクトの真骨頂である。スイスの伝統的なウォッチメーキングの流れを汲みながら、ドイツ的な機能美の思想を取り込んだのがIWCというブランドのアウトラインだと言っていい。神は細部に宿る――ドイツの巨匠の言葉をスイスブランドの形容に用いるのはご法度かもしれないが、その数少ない例外としてIWCに用いることに、何ら違和感はない。ミクロワールドを知る一流のフォトグラファーが、その何よりの証言者である。

岡村昌宏さん
今回話を伺ったフォトグラファーの岡村昌宏さん。写真撮影や映像制作を行うクロスオーバーの代表を務める。車雑誌をはじめライフスタイル誌、ビジネス誌、会員誌、ウェブメディアまで幅広い媒体で活躍する。本記事の時計撮影はすべてフェーズワンを使用してもらった
問い合わせ情報

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IWCシャフハウゼン
TEL:0120-05-1868

photograph:Masahiro Okamura(Watch), Manabu Morooka(Portrait)
edit & text:d・e・w