25年前のセンセーショナルな“事件”に端を発す
クラシック特有の気品を抽出し、それを現代的に解釈したショパールのハイエンドウォッチのコレクション「L.U.C」が、今年誕生25周年を迎えた。新作の中で、このアニバーサリーの目玉となったのがチャイミングウォッチの三部作。アワーストライク、サファイアクリスタルケース製ミニットリピーター、そしてミニットリピーター搭載フライング・トゥールビヨンという3モデルを披露し、複雑機構の中でも技術的難度の高いチャイミング機構を作る研究開発の力と、ダイヤモンドに次ぐ硬度のサファイアクリスタルを自在に扱う加工技術の高さを知らしめた。
これらチャイミングウォッチのインパクトが強すぎるせいかあまり取り沙汰されないが、実は注目したいのが3針、日付表示のみのシンプルウォッチ「L.U.C XPS 1860 オフィサー」である。ショパールのウォッチメーキングの歴史とフィロソフィーがこの一本に凝縮されているからだ。
今から25年前の1997年、ショパールは本格機械式時計コレクションとしてL.U.Cを発表するが、高級時計の世界においてそれは一つの“事件”だったと言っていい。それまでジュエリーやジュエリーウォッチの印象が強くどちらかと言えば女性向きのブランドだったショパールが、突如としてムーブメントを内製するマニュファクチュールを宣言。自社製のキャリバー L.U.C 1.96(現L.U.C 96.01-L)を搭載した3針、日付表示付きのエレガントウォッチ「L.U.C 1860」を発表したからだ。
しかもこのファーストモデルからして、スイス機械式時計の美観と高品質の証しとなるジュネーブ・シールとCOSC認定を二つながらに取得していた。単に機械式時計ブランドとしてのろしを上げるだけでなく、初号機からして高級時計の頂点に立つほどのクオリティーの高さに時計関係者たちはショパールの本気を見たのである。
今年の新作L.U.C XPS 1860 オフィサーは、そんなショパール マニュファクチュールの鮮烈なデビューを思い起こさせる。裏蓋を開閉できるオフィサーケースのケースバックを開けると、そこに収められたのはまさにその“事件”を引き起こしたキャリバー L.U.C 96.01-L。マイクロローター採用で自動巻きながら厚さ3.3mmの薄型に設計され、積載式二重香箱により小径・薄型のキャリバーでありながら65時間のパワーリザーブを有する。その完成度の高さは初出から25年を経た今も見劣りするものではない。
さらにL.U.Cが並の時計と一線を画すのが、その美しさである。ムーブメントの地板や受けに施されたペルラージュやコート・ド・ジュネーブの装飾、パーツの面取り、ローターの放射状のエングレービング、あるいはダイヤルやケースバックに施されたハニカムモチーフの幾何学装飾など、精緻な仕上げもまたL.U.Cの核を成すフィロソフィーとなっている。
キャリバー L.U.C 96.01-Lを裏蓋開閉式のオフィサーケースに収めたモデルは既出だが、今年は初めてエシカルなイエローゴールド製ケースのモデルが登場。深みのあるフォレストグリーンのダイヤルと相まって、クラシック感とトレンド感を両立した軽妙な顔つきへと刷新された。
類いまれな歴史やエピソードを持つ時計は少なくないが、高級時計の世界に衝撃を与えるほどのセンセーショナルなストーリーを持つ時計は極めてまれだ。見目麗しく、その内には高みを目指そうとする熱いスピリットが宿る。現代のビジネスパーソンが携えておきたいものが、この時計にはある。
text:d・e・w
photograph:Kazuteru Takahashi