パリ、ラ・ショー・ド・フォン、そして東京
「この30年ほどで私たちが飛躍することができた要因はいくつかあるが、中でも3つの出会いが大きなターニングポイントとなった。まずはヘルムート・ジンとの出会い。これがすべての始まりだったと言ってもいい」
そう話すのは、ベル&ロスのクリエーティブディレクターを務めるブルーノ・ベラミッシュ氏である。ベラミッシュ氏は、パリの国立デザイン工業大学(ENSCI)を卒業する際、デザインプロジェクトのインターン先に、かねてから憧れを抱いていたドイツの時計ブランド、ジン社を選ぶ。そこで出会ったのがジン社の創業者、ヘルムート・ジン氏だった。2人は「機能性を持った時計づくり」を志向する点で意気投合。このときの経験がもとになって1994年、「形は機能がつくる」をモットーとするベル&ロスの創業に至った。ブランドが目指す時計づくりの礎となったのはジン氏との出会いだった。
続けて、ベラミッシュ氏と共にブランドを立ち上げ、それ以来ブランドCEOも務めるカルロス=アントニオ・ロシロ氏が述懐する。
「2つ目のターニングポイントはシャネルとの出会いだ。同じフランスのブランドということもあって伝統やラグジュアリーに対する考え方が近く、理想的なパートナーシップを結ぶことができた。それに加えて私たちにとって大きかったのは、資金面のサポートを受けて生産力を大いに向上できたことだ」
創業からわずか3年後の1997年、ベル&ロスはフランスを代表するメゾンであるシャネルと資本提携を交わす。そのサポートもあってスイス時計産業の中心地であるラ・ショー・ド・フォンに大規模な時計工場が竣工し、時計製造を本格的に開始。世界展開の基盤が整った。
そして最後のターニングポイントは、思いがけず東京との出会いだという。ロシロ氏がこう説く。
「伝統的な時計技術やメカニズムが中心にあり、そこにアバンギャルドや最先端を組み合わせるのがベル&ロスの時計づくり。この伝統と現代性という部分は日本のカルチャーからも同質のものを感じる。日本はマーケットの大きさだけでなく、私たちのものづくりの姿勢や感性を深く理解してくれるファンが多いという点でも大切な国。今年、東京にブティックをオープンできたことは大きな喜びだ」
時計への熱情はついにムーブメントへ
ロシロ氏が語った「伝統と現代性」を融合した時計づくりの最新の成果が、この秋登場した「BR-X5」である。創業からおよそ30年、ベル&ロスの歴史を画する記念碑的なモデルと言っていい。
「高級な時計をつくりたかったわけではなく、より洗練された時計をつくることが目的だった。イメージソースは航空やフォーミュラ1の世界。軽さや頑丈さを追求し、なおかつ高性能ということがテーマとなった。BR 05の進化版であること、そして未来的やアバンギャルドといった意味を込めてBR-X5と名付けた」
ベラミッシュ氏が話す「BR 05」とは2019年に発表されたコレクションのことで、航空計器をモチーフとする創業以来のアプローチはそのままに、よりモダンでスタイリッシュな方向でデザインされた。力強さとおしゃれ感の融合は“これぞベル&ロス”と言いたくなるようなデザインで、発表から数年にして早くもブランドのピラーコレクションとなっている。
このたび登場したBR-X5は、そのBR 05をもとに全面的にブラッシュアップしたモデルとなる。まずデザイン面ではBR 05が持つ造形の美しさは踏襲しながら、ミドルケースやリュウズガードをくり抜き、ダイヤル上のインデックスをバータイプにするなどして、スタイリッシュでありながらスポーティー、タイムレスでありながらアバンギャルドなデザインを創出した。
そしてこのモデルの最大の進化は内部のムーブメントにある。搭載するキャリバーBR-CAL.323は、初めて自社でデザインを手がけたマニュファクチュール・ムーブメントとなる。このキャリバーは2016年創業という新興ながら技術力に優れるスイスの腕時計部品メーカー、ケニッシ社と共同で開発したもので、約70時間のパワーリザーブを有し、ブランドとして初めてCOSC認証を取得。購入後の保証期間も5年間へと延長された。
「腕時計の機能的な役割よりも装飾的な役割が重要になるなかで、今後もより一層ベル&ロスの創造性やノウハウを生かしてアバンギャルドを見せていきたい」と語るベラミッシュ氏。次の飛躍に向けて、デザインのみならずメカニカルの面でもアバンギャルドな新地平を切り開いたのがこのBR-X5と言っていい。記念碑的と称するゆえんである。
ベル&ロス 銀座ブティック
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