高級時計にサステナビリティーを吹き込んだパイオニア

長らく新作時計の発表の場だったバーゼルワールドとジュネーブサロンに取って代わり、現在最も影響力のあるフェアとなったのがウォッチズ&ワンダーズである。会場では多彩なプログラムが用意されたが、そのうちの一つに各ブランドのトップやキーパーソンがステージ上でプレゼンやトークセッションを行うKEYNOTEがある。大半のブランドが新作時計にフォーカスしたプレゼンを行う中で、ショパールのKEYNOTEは異例だった。与えられた約30分の間、時計のメカニズムやデザインに関する話は皆無で、全てルーセントスティール™という素材の話に終始したのである。

このルーセントスティール™とはショパールが独自に開発したスティール合金の呼称で、優れた耐久性や抗アレルギー性を有し、さらに通常のスティールよりも高い輝度を誇る。こうした高級時計にふさわしい特性もさることながら、最大の特徴はその80%がリサイクル素材で構成されていることだ。

サステナビリティーなどという倫理観にまだどのブランドも見向きもしなかった2013年、ショパールは高級時計の世界でいち早く着目し、「サステナブル・ラグジュアリー」という方針を打ち出す。その最たる成果が、生産から流通まで全てのサプライチェーンを明確にしたエシカルゴールドであり、リサイクル素材のルーセントスティール™である。2018年には同社が使用するゴールドの100%エシカルゴールド化が完了し、そして今年、ショパール共同社長のカール‐フリードリッヒ・ショイフレは前述のKEYNOTEで、2023年末までに同社が開発・製造する全てのスティール製ウォッチにルーセントスティール™を使用することを宣言したのである。

素材のリサイクルは往々にして、新たに製造するよりも多くのプロセスやコストを要する。にも関わらずショパールがそれを推し進めるのは、ラグジュアリーの世界にサステナビリティーという観念を吹き込み、高級時計産業を永続させようというショイフレのロングタームな視点があるからだ。この人がやることはいつも長期的で、壮大である。ショイフレの志の高さがすなわちブランドの格の高さだと言ってもいい。

集合写真
ウォッチズ&ワンダーズ、KEYNOTE終了後のフォトセッションから。右から3人目がショパール共同社長のカール‐フリードリッヒ・ショイフレ、その左がグローバルアンバサダーのジュリア・ロバーツ、さらに左はもう一人の共同社長兼アーティスティック・ディレクター、キャロライン・ショイフレ。カール‐フリードリッヒの右は、ルーセントスティール™製造のパートナー。KEYNOTEでリサイクルの詳細を語った

さて、今回取り上げるのは、そのルーセントスティール™をケースとブレスレットに使用した「アルパイン イーグル」の新作である。ショパールが1980年に製造したスポーツテイストの腕時計をデザインソースとするアルパイン イーグルは、昨今の“ラグジュアリー・スポーツ”ウォッチ人気の潮流にも乗り、コレクション誕生からわずか数年でブランドの柱となっている。

今年の新作「アルパイン イーグル 41 XPS」は、見ての通り、文字盤の“モンテローザピンク”カラーとそこに施された放射状のパターンがまず目を引く。この文字盤の繊細さに調和するようにケースの厚みが8mmという薄型に仕上げられた。

時計
「アルパイン イーグル 41 XPS」。ケース、ブレスレットはルーセントスティール™(スティール合金)。ケース径41mm。自動巻き。100m防水。316万8000円(税込)。今秋発売予定
時計文字盤
緩やかなカーブを描くダイヤルのパターンは、コレクション名の由来にもなったイーグルの瞳の虹彩から着想を得たもの。ピンクカラーはスイスとイタリアの国境にあるモンテ・ローザ山群からインスピレーションを得た
時計側面
ケースの厚さは8mm。ブレスレットの厚みとのバランスも良く一体感がある。リュウズガードも薄く設計されているため、リュウズが引き出しやすく操作もしやすい
時計内部
シースルーケースバックからは、美しい装飾が施された自動巻きのキャリバーL.U.C 96.40‐Lが楽しめる。リュウズ側の受けとケースバックの外周部分に見える紋章のような刻印がジュネーブ・シール

そして内部に搭載するムーブメントは、ショパールの最高品質であることを示す“L.U.C”を冠したキャリバーL.U.C 96.40‐L。マイクロローターを採用して自動巻きながら厚さを3.3mmに抑え、その一方でバレルを2つ重ねて搭載する積載式の二重香箱により65時間のパワーリザーブを確保した。薄さと実用性をハイレベルで両立したムーブメントと言っていい。

結果として、このモデルは機械式時計に関する主要な2つの品質認証――ジュネーブ・シールとCOSC(スイス公式クロノメーター検定協会)認証――を共に取得している。美観と高性能の客観的な証しとなる第三者機関の認証は、1996年にマニュファクチュールを設立して以来ショパールが重要視してきた、もはや時計作りのDNAと呼べるもの。やはりこのブランドの歩みは一貫してぶれることがない。

問い合わせ情報

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ショパール ジャパン プレス
TEL:03‐5524‐8922


photograph:CHOPARD
edit & text:d・e・w