エスプリは軍用機にも宿るのか。A400Mは見るほどに美しい

航空機好き、とりわけ軍用機好きであれば、先日、フランス航空宇宙軍が開催した「ペガーズ23」ミッションは記憶に新しいことだろう。このミッションは、フランス本土から約20機の航空機をインド太平洋の自国領周辺に派遣して、それらの地域との航空外交を視野に入れたもので、今回が3回目の開催となる。日本では7月26日から7月29日まで、宮崎の航空自衛隊新田原基地と、埼玉の航空自衛隊入間基地および所沢航空記念公園を舞台に、各種イベントやエアショーが行われた。

中でも航空機好きたちの間でトピックとなったのが、フランス航空宇宙軍が持つ輸送機A400Mと、戦闘機ラファールの日本上陸である。ともに来日するのは非常に珍しく、一部のメディアにはA400Mの機体取材、乗組員たちとの交流、そしてエアショー向けの飛行に体験搭乗する機会が与えられた。

輸送機A400M
取材陣に公開された輸送機A400M。巨大ではあるが野暮な感じはせず、どこか洗練されているのはフランスの軍用機だからか。取材動画は下部参照

A400Mの機体後方の貨物扉が開くと、その開口は高さ、幅ともに5m近くあるだろうか。間近で見るとその大きさに圧倒され、一方でその巨大な機体と4枚のプロペラの組み合わせは、どこかアナログ感があり愛嬌がある。機体内部は、輸送機としての任務を完遂するために完全に合理化・最適化された空間で、全ての作業がミスなく、無駄なく、スムーズに行えるように設計されている。無駄のない設計とはこれほど整然として美しいものかと実感する。

そして最も印象的だったのが、A400Mの体験搭乗である。輸送機だからか、あるいはエアショーならではの大盤振る舞いか、機体の上下動が非常に激しく、長い。うなだれてエチケット袋が配られる取材陣、談笑する人もいるほどケロッとしている軍人男女……。いずれにしても、普段はのぞくことのできないプロフェッショナルのリアルな現場を垣間見る貴重な機会だった。

時計好きの航空機好きが作った、念願の航空時計

さて、このペガーズ23の会場となった所沢航空記念公園の一角には、フランス・パリの高級時計ブランドであるベル&ロスのブースが設けられた。それはベル&ロスが、フランス航空宇宙軍のアクロバット飛行チーム「パトルイユ・ド・フランス」の公式時計製造パートナーであるためだ。そのつながりから、今回のペガーズ23もサポートする運びになったという。

軍の関係者
会場では軍の関係者もベル&ロスの時計を着用。互いのモデルを見せ合う一コマも。本気の迷彩服になじみながらもスタイリッシュに仕上がるのがベル&ロスの醍醐味 ©Mayuko Sakai

ベル&ロスの創業は1994年と歴史こそ長くはないが、その創業から世界的ブランドに至るストーリーは熱く、胸にこみ上げるものがある。当時、デザイナーとバンカー(銀行家)だったフランス出身の2人は、時計好きが高じてウォッチブランドを立ち上げる。彼らは時計好きであると同時に無類の航空機好きでもあった。ブランドを創業すると航空世界から着想を得た時計作りに取り組み、航空機のコックピットの計器を抜き出してそのまま腕時計に落とし込んだかのような「BR 03」コレクションは、2006年に発表すると瞬く間に世界的なヒットとなる。きっかけはトレンドやマーケティングではなく、まさに彼らの“好き”を具現した時計作りだった。

フランス出身で航空機好きであれば、誰もが憧れるのが先述したアクロバット飛行チーム、パトルイユ・ド・フランスである。2人もその例に漏れず、小さい頃から憧れを抱き、ベル&ロス創業後はいつかは彼らをテーマとした時計を作りたいと夢見ていたという。創業から27年後の2021年、ついにその夢がかなう。パトルイユ・ド・フランスの公式時計製造パートナーに選ばれ、以降、彼らとコラボした特別モデルを製造してきた。

そのパートナーシップの3年目となる今年、発表されたのが「BR 03‐92 パトルイユ・ド・フランス 70TH アニバーサリー」である。モデル名から分かるように、今年はパトルイユ・ド・フランスが創設されてから70周年の節目の年。このアニバーサリーを祝すように、新作にもさまざまな特別仕様が盛り込まれた。

まず、ケースは軽量かつ耐傷性や耐腐食性に優れるハイテクセラミック製で、ケースバックにはパトルイユ・ド・フランスの70年を彩ってきた5機のヒストリックな戦闘機が刻印された。ダイヤルの鮮やかなブルーはパイロットが着るフライトスーツから着想され、同飛行チームのエンブレムと70周年の記念ロゴがダイヤルを彩る。文字盤外周のフランジ部分やストラップのステッチの一部をフランス国旗の3色で塗り分けるなど、ディテールも気が利いている。100mの防水性や視認性を確保しながらファッション性も申し分なく、その高いレベルでの両立がいかにもベル&ロスである。

時計
今夏登場したコラボモデル第3弾。パトルイユ・ド・フランスの創設70周年を祝うような鮮やかなカラーリレーションが印象的だ。「BR 03‐92 パトルイユ・ド・フランス 70TH アニバーサリー」。セラミックケース(ビーズブラスト加工)。ケースサイズ42×42mm。自動巻き。100m防水。カーフストラップ(シンセティックファブリックストラップが付属)。世界限定999本。57万2000円(税込)
ケース裏の刻印
ケース裏の刻印。1953年のサンダージェットから1981年のアルファジェットまで、70年の歴史を彩ってきた5機の機体と名称があしらわれている

ブランド創設のヒストリー、航空機好き憧れのパトルイユ・ド・フランスの70周年、プロダクトに盛り込まれた特別仕様、そして何よりも真の航空機好きが作った航空時計であること。“空から生まれた名作”としてこのモデルを挙げることに異論を唱える時計関係者はいないはずだ。

問い合わせ情報

問い合わせ情報

ベル&ロス 銀座ブティック
TEL:03‐6264‐3989


photograph:Bell & Ross, d・e・w
edit & text:d・e・w