見事な仕上げ、美しい調和はメゾンに息づく技と感性の賜物
シンプルウォッチはごまかしが利かない。腕時計を構成する最低限の要素のみでデザインしなければならず、そのためブランドの美意識、サイズやバランスの感覚、仕上げの質が問われるからだ。このシンプルウォッチで一日の長があるのがヴァシュロン・コンスタンタンである。
ヴァシュロン・コンスタンタンは創業から268年にわたり時計製造を続けるスイス・ジュネーブ発のメゾン。老舗中の老舗でありながら新しさを受け入れる姿勢、腕時計のバランスを知り尽くした感性、細部の仕上げへの徹底したこだわり――これらに基づいて美しいタイムピースを創造するのがこのメゾンの時計作りだ。とりわけ丸形ケースの「パトリモニー」コレクションは、ケースの丸みやベゼルの幅、バトン針やくさび形インデックスの細さ・長さ、ドット形の分目盛りなど、あらゆる要素が計算し尽くされて美しく調和し、足すも引くも許さない緊張感さえ漂う。この上質なシンプリシティーにレトログラード機構を載せたのがここで取り上げる2モデルである。
レトログラード(仏語で逆行の意)とは指針が扇状の目盛りに沿って進み、終点に達すると起点にジャンプして戻る機構のこと。耳目を集めるような派手さはないが、戻るはずのない時間が戻るような観念的な針の動きと奥深いシンプリシティーが呼応して、通好みの妙味がある。
photograph:Shoichi Kondo、VACHERON CONSTANTIN
edit & text:d・e・w