今年だけ、370本だけの特別感を手にする
ヴァシュロン・コンスタンタンは今年、創業270周年を迎え、それを記念するように多彩な新作を披露した。2針・3針のシンプルウォッチから、お得意のムーンフェイズ&レトログラード・デイト付きモデル、ダイヤルの一部をくり抜いたオープンフェイス、職人の芸術的な手作業が光るメティエ・ダール、そして極め付きが、腕時計史上最多となる41の複雑機構を備えたグランドコンプリケーション。メゾンに息づくウォッチメーキングの幅の広さや卓越性を改めて知らしめた。
その新作群から本連載のテーマ「品格と実用」という視点で選ぶなら、このモデルに限る。「トラディショナル・マニュアルワインディング」である。ヴァシュロン・コンスタンタンの時計はどれもがクラシカルなエレガンスを基調とし、そこからモダンやスポーティー、レトロなどといったテイストへと創作が広がる。その一つ、端正で格調高いテイストへと広げたのが「トラディショナル」コレクションである。
今年登場したトラディショナル・マニュアルワインディングは、コレクションに一貫するデザインコード――段差が付いたラウンドケース、ドーフィン針とバータイプのアプライドインデックス、レールウェイ分目盛り、コインエッジ入りのケースバックなど――を遵守しながら、そこにわずかに手を入れるだけでまったく新しい外観を獲得した。
最大の見どころは、ブランドを象徴するマルタ十字のモチーフから八方へと伸びるように繊細な装飾を施したダイヤルである。よほどの時計好きでもない限り気が付かない特別感。270周年記念といえども、これ見よがしに走ることのない美意識に老舗の品格を感じさせる。




38mm径とやや小ぶりなケースはプラチナ製と18Kピンクゴールド製の2種。その内部には、薄型手巻き式の自社製キャリバー4400 ASに、このモデルのためにアーカイブから掘り起こされた「コート・ユニーク」装飾と270周年の記念エンブレムを施したキャリバー4400 AS/270を搭載する。パワーリザーブは約65時間。デイリーユースに申し分ない駆動時間を有する。
これらの新作は周年モデルであるため、今年だけ、各370本だけの限定生産となる。シンプルで端正な時計は人と被りやすいという難点があるが、これらのモデルであればその心配も少ない。普段遣いの時計にも人とは違った特別感を、と考えるエグゼクティブには格好のタイムピースである。

問い合わせ情報
ヴァシュロン・コンスタンタン
TEL:0120‐63‐1755
photograph:VACHERON CONSTANTIN
edit & text:d・e・w