機械に向き合ってこそウォッチメーカーだ
機械式時計のメカニズム開発は成熟の域に達しつつある、という話を聞くことがある。精度や性能の向上をはじめ、複雑機構の開発においても行き着くところまで行き着いた感があり、さらなる改善の余地は少ない。画期的な機構開発はそれほど見込めず、今後はデザインやスタイルの時代になる、と。
そんな業界の空気はどこ吹く風、実用性の改善に向けた開発で気を吐くのがパテック フィリップである。そもそも華美過剰なデザインや派手な“演出”を嫌い、決して目立たずとも有意義な開発に注力するのがこのメゾンの時計作りだ。昨今はトラベルウォッチの分野でユーザビリティーの向上が顕著だったが、今年は実用時計の一つの到達点といえるモデルが登場した。「カラトラバ8日巻5328」である。




このカラトラバ8日巻5328は、モデル名から分かるように8日間のロングパワーリザーブを有し、完全巻き上げ時であれば、たとえ1週間着用しなくても動き続ける。それでいてパテック フィリップ・シールに準拠する日差-1~+2秒という高い精度を誇る。なお、12時位置のパワーリザーブ表示が9分割されているのは、実際には9日間のパワーリザーブを備えているため。9日目は精度が低下するリスクがあるため予備日とし、巻き上げを促すために赤い目盛りにしているという。何とも奥ゆかしい計らいだ。
6時位置のスモールセコンドには秒表示と日付表示用の指針を同軸で設置し、内側の小窓で曜日を示す。日付・曜日表示は午前0時に一瞬にして切り替わる瞬時送り式のため、読み取れない、あるいは読み違えるということはまずない。さらに、機械式時計の多くは、午後8時~午前4時の間に日付修正を行うと不具合が生じる可能性があるが、このモデルではその難点も克服した。パテック フィリップが有する特許技術ゆえである。
パテック フィリップというと、高級時計の伝統を宿すエレガントな時計という印象が強いかもしれないが、その一方でこれほど内部機構の改良に熱心なメゾンはない。必要とあらば、通常は手を入れることのない極小のパーツにまで目を向けて、形状や構造、素材をリファインする。パーツの開発なんて地味で耳目を集めるような派手さはないが、機械式時計メーカーの本分が機械に向き合うことだとすれば、パテック フィリップほどその責務を全うするメゾンはないのである。歴史あり、格式高いメゾンにして、この実直さ。エグゼクティブに推奨するのに、もはや多くの言葉は要るまい。

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photograph:PATEK PHILIPPE
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