大人のためのスポーティー・エレガンス
“数日着用しなかったら時計が止まっていた”という経験は、機械式時計ユーザーであれば誰もが身に覚えのあることだろう。一つの例外もなく全ての機械式時計につきまとうこの駆動時間の課題に、時計メーカーが本格的に向き合い始めたのは今世紀が幕を開けた頃のこと。それまで2針や3針のシンプルなムーブメントの駆動時間は40~50時間程度だったが、各社がロングパワーリザーブの開発に尽力した結果、昨今は70~80時間に延伸されたものが主流になりつつある。
というのは、一般的なムーブメントの話で、これが薄型ムーブメントとなるとその様相はまったく異なる。ムーブメントを大きく、厚くしてよければ、動力を蓄えるぜんまいに大きなスペースを割けるため、長時間駆動は比較的実現しやすい。だが、薄型ムーブメントはぜんまいを小さく、薄く収めねばならず、その上で駆動時間を延ばすのは物理的に困難が伴う。薄型化と長時間駆動化は相反する開発であり、言うなればトレードオフの関係である。そのため、薄型ムーブメントの駆動時間は昨今も40~60時間程度にとどまってきた。
“きた”と述べたのは、今年、そのトレードオフを鮮やかに解消したムーブメントが登場したからだ。自動巻きムーブメントで厚さ2.4mmと極めて薄型ながら、パワーリザーブは約80時間。開発したのはジュネーブで260年以上続く高級時計の最古参メゾン、ヴァシュロン・コンスタンタン。それを載せたのが今回取り上げる「オーヴァーシーズ・エクストラフラット・オートマティック」である。



では、ヴァシュロン・コンスタンタンはいかにして薄型と長時間駆動を両立したのか。やや専門的な話になるので簡潔に述べると、肝は3点ある。
まず、自動巻きムーブメントに欠かせないローターは、通常の半分ほどの径のマイクロローターを採用し、それを地板に直接組み込むことで厚みの抑制を図った。次に、ぜんまいとそれを収める香箱を2つ備えた吊り下げ式二重香箱という新しいコンポーネントにより、省スペースで長時間の動力を確保。最後が、マイクロローターと吊り下げ式二重香箱、そしてテンプの隙間を縫うように新たにレイアウトされた水平配置の輪列である。長年にわたってこのメゾンが積み重ねてきた薄型化の技術とノウハウの賜物だと言っていい。

腕時計の厚みとは時として野暮ったさの要因となり、翻って薄型であることは往々にしてエレガンスの源泉となる。“美しい時計”を標榜するヴァシュロン・コンスタンタンからすれば、どんな時計であろうと薄型を追求することはマスト、順守すべきコードのようなものである。メゾンの中ではスポーティーなデザインとして位置づけられる「オーヴァーシーズ」コレクションにおいてもその“コード”が不変であることを明快に示したのが、このオーヴァーシーズ・エクストラフラット・オートマティックだ。
スポーティーかつエレガントな時計の人気は根強く、いまだ陰りは見られない。一過性のトレンドではなく高級時計のスタイルとして定着した感がある。主張が強すぎるのが気になる、今さら流れに乗るのも…とためらう者でも、こんな時計なら話は別。軽やかなフェイスにドレッシーな横顔、そして既成概念を塗り替えた内部機構の性能の高さ。大人が身に着けるべきスポーティー・エレガンスの理想形と称しても差し支えない。

問い合わせ情報
ヴァシュロン・コンスタンタン
TEL:0120‐63‐1755
photograph:VACHERON CONSTANTIN
edit & text:d・e・w
