価格以上の品質で、時計ファンの支持を得る
高級時計の価格が上がり続けている。人気ブランドの新作は年々プライスを上げ、かつては手の届く存在だったモデルも、今では簡単には選べない価格帯へと移行しつつある。その一方で、消費者の目は以前にも増して厳しい。価格に見合う品質があるか。造形や仕上げに心惹かれる美観があるか。そして日常的に使いたくなる魅力があるか。高級時計に求められる価値は、確実に変わりつつある。
そうした流れの中で、独自の存在感を高めているのがフレデリック・コンスタントだ。クラシックでエレガントなスイス時計でありながら、価格はあくまでフェア。自社製ムーブメントを搭載するマニュファクチュールコレクションを持ち、同時に10万円台後半からの実用的なコレクションも充実させる。そのバランス感覚こそが、今の時計ファン、とりわけ価格と品質の関係に敏感な世代から支持を集める理由である。
そのフレデリック・コンスタントを率いるのが、CEOのニールズ・エガーディン氏である。マネージングディレクターとしてブランドに携わって8年、CEOに就任して3年。この間、ブランドの魅力を高め、世界市場での存在感を強めるために、何を変え、何を貫いてきたのか。そして、2026年の新作には、その思想がどのように表れているのか。来日した本人に聞いた。

注力したのは“憧れ”と“実売”を両立させる改革
――本日はよろしくお願いいたします。マネージングディレクターとして8年、CEOとして3年が経ちました。今、振り返ってどのように感じていますか。
【ニールズ・エガーディン氏(以下略)】フレデリック・コンスタントは、もともとファミリー企業として生まれたブランドです。それがシチズンウオッチグループの一員となったわけですが、大企業に買収されたファミリー企業が成功することは、一般的には決して簡単ではありません。その中で私たちがうまく進んでこられた理由は、信頼関係を築けたことにあります。
――ご自身で特に力を入れてきたことは何でしょうか。
最も重要だったのは、ブランドや製品に対する「憧れ」をつくることです。そのために、まず消費者のニーズがどこにあるのかを注意深く見てきました。ユーザーの声に耳を傾け、適切な製品を用意することに注力してきたのです。
ピーター・スピーク・マリン(※1)、セコンド/セコンド(※2)、バンフォード(※3)といったクリエイターとのコラボレーションもその一環です。ユニークな限定モデルをつくることで、ブランドへの憧れを高める。一方で、価格をアクセシブルに保った商業的なコレクションも同時に展開する。特別なモデルと、より多くの人に届くモデル。その両方が必要なのです。
私たちが取り組んできたのは、「製品の魅力」「グローバルな流通の拡大」「セルアウトの加速」という3つの要素です。憧れを生むプロダクトを用意し、それを世界の市場へ届け、実際の販売につなげていく。この三位一体の戦略を突き詰めてきました。
(※1)英国ロンドン出身の著名な独立時計師
(※2)パリのアーティスト、ロマリック・アンドレが主宰する時計デザインプロジェクト
(※3)バンフォード・ウォッチ・デパートメント。ロンドンを拠点とする高級カスタムウォッチブランド

――製品からユーザーに届くまでのプロセスを、少しずつ改良してきたということでしょうか。
まずは消費者の声をきちんと聞くことです。その商品が消費者にとって正しいのか、望まれているのかを注意深く判断する。これが最初のステップです。ブランドへの憧れを高めることと、実際にユーザーが手に取りやすいコレクションを用意すること。その両方を同時に進めなければなりません。
その姿勢は、製品開発にも表れています。フレデリック・コンスタントは、自社製ムーブメントを搭載するマニュファクチュールコレクションを持つブランドでもあります。これはビジネス全体では一部にすぎませんが、真の時計メーカーであることを示し、ブランドの信頼性を支える重要な存在です。2026年の新作にも、その姿勢は明確に表れています。
ユーザーの声から生まれた「クラシック モネータ」
――「消費者の声に耳を傾ける」とおっしゃいました。実際にユーザーの声から生まれた代表的なモデルはありますか。
6年前、消費者のフィードバックを分析して最初につくったのが「ハイライフ」でした。当時のコレクションには、ブレスレットを重視した、よりスポーティーなDNAを持つ時計がありませんでした。しかし、市場は確実にそうした時計を求めていたのです。その後、よりヴィンテージなルックを求める声に応える形で「クラシック モネータ」ラインを発表しました。これもまた、彼らのリアルな声から生まれたコレクションです。
――クラシック モネータは、どのようなコレクションなのでしょうか。
クラシック モネータは、コインエッジのベゼルが特徴の、ヴィンテージでクラシックな印象を持つコレクションです。2026年の新作では、39mmのソーラーモデルを発表しました。文字盤の仕上げやアプライドインデックスなど、高級時計らしい質感にこだわりながら、スイスメードのソーラーという新しい技術を組み合わせています。



――クラシックな外観とソーラーという組み合わせは、意外性もあります。
私たちが大切にしているのは、ブランドのDNAとイノベーションの融合です。クラシックでエレガントな時計をベースにしながら、新しいテクノロジーを搭載する。伝統的な見た目と革新性を両立させるのが、フレデリック・コンスタントのスタイルです。
高級時計の価格高騰に、どう向き合うのか
――近年の高級時計は、価格上昇が目立ちます。フレデリック・コンスタントは、どのように価格と向き合っているのでしょうか。
正直に言って、多くのブランドが価格設定に苦しんでいると思います。今春のウォッチズ&ワンダーズ・ジュネーブに参加していたブランドの多くも値上げをしていましたが、私たちは非常に慎重でした。
現在の私たちの成功は、製品の魅力とフェアプライスにあると考えています。特にZ世代は非常に知識が豊富で、価格と製品のバランスに敏感です。私たちはマージンを削り、高価なブランドアンバサダーを起用せず、F1チームやサッカーチームへのスポンサーシップも行いません。不要なコストを削ることで、公平な価格を提供しているのです。
――その姿勢は、他社にはなかなかまねできないことかもしれません。
高級ブランドを築くには時間がかかります。重要なのは、一貫性、品質、希少性の3つです。ブランドのDNAを一貫させ、品質を保ち、あえて供給を絞ることで憧れを創出する。これは長期的な戦略です。幸い、私たちが所属するシチズンウオッチグループは、非常に穏やかで長期的な視点を持ってサポートしてくれます。スイスメードのラグジュアリーブランドと、日本文化の長期的な視点は、とても良い組み合わせだと感じています。
SNSに寄せられた10年分のフィードバックから改良
――先ほどのモネータに続き、2026年のもう一つの注目作として、新しいワールドタイマーについて教えてください。
ワールドタイマーは14年前に発表されたモデルで、今では私たちのマニュファクチュールコレクションの中でも最も象徴的なベストセラーです。今回の刷新にあたっては、過去10年間にSNS上で寄せられたネガティブなフィードバックを、チームですべて洗い出しました。
改善点は大きく3つありました。ケースサイズを42mmから40mmへ小径化したこと、ブレスレットの品質を高めたこと、そしてパワーリザーブを72時間へ延ばしたことです。さらに日付ディスクをなくし、都市名のディスクをより大きく表示できるようにしました。単なるサイズ変更ではなく、長年のユーザーの声をもとに、装着感、視認性、実用性を一つずつ磨き直したモデルです。

――日本のビジネスパーソンに薦めるなら、どのモデルでしょうか。
日本は湿気が多いので、ブレスレットタイプをおすすめします。ダークネイビーのダイヤルは非常に読みやすく、エレガントです。ブレスレットはインターチェンジャブルなので、ストラップに交換することもできます。ビジネスにもカジュアルにも合わせやすい、私の一押しです。
――最後に、今のフレデリック・コンスタントをどのようなブランドとして見てほしいですか。
私たちは、単に安い時計をつくっているわけではありません。美しく、信頼でき、手の届く価格であること。そのバランスを真剣に追求しています。
高級時計に求められる価値は、いま変わりつつあります。知名度や価格だけでなく、なぜその価格なのか、どこに品質が宿っているのか、そして日常で使いたいと思えるか。そこが問われているのです。フレデリック・コンスタントが示しているのは、ラグジュアリーの新しい良心かもしれません。クラシックなスイス時計の魅力を守りながら、現代のユーザーが本当に求める価値に、誠実に応えていきたいと考えています。
――高級時計の裾野を広げるような姿勢は、スイス時計産業の将来にとって非常に有益なことだと感じます。本日はどうもありがとうございました。

問い合わせ情報
フレデリック・コンスタント相談室
TEL:0570‐03‐1988
photograph:Sachiko Horasawa
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