ラギッドもアーバンもこの“あか抜け感”がベル&ロス流
冒頭の画像に写る2本の時計から、どんなインプレッションを受けただろうか。片や、ラギッドでタフ。プロフェッショナルの道具に由来する緊張感があり、いかにもツールウォッチらしいたたずまいを見せる。もう一方は、軽妙で気が利いていて、グッと都会的だ。ブレスレット一体型のフォルムが装いになじみ、スポーティーでありながら洗練された印象を漂わせる。
これら2つのモデル、「BR‐03 ブラック マット」(写真左)と「BR‐05 ブラック セラミック」(同右)は、現在のベル&ロスを象徴するアイコン的なモデルである。何よりも興味深いのは、両者がまったく異なる個性を放ちながら、同じデザインコードを有していることだ。
まず、創作の着想源は、両モデルとも航空機のコックピットに並ぶ計器。ウォッチデザインに目を向ければ、スクエアのケースとラウンドの文字盤の組み合わせ、ブラックとホワイトのツートンカラー、ケース四隅のビス留め、そして視認性を重視した明快な時分針とインデックスと、これほど多くの共通要素を持ちながら、それぞれに独特の世界観を構築しているのである。
その要因を挙げるなら、“フォルムと仕上げの一貫性”といっていい。まず、BR‐03 ブラック マットは、スクエアの角をわずかにカーブさせたケースと、広々としたダイヤルが特徴的だ。ケースのセラミックをあえてマットブラックに仕上げた質感も相まって、視認性を最優先する計器由来の機能美が、そのままデザインの力強さになっている。
手首に乗せても、その魅力は変わらない。存在感はあるが、決して大げさではない。ミリタリー由来のタフさを備えながら、黒を基調とした端正な表情によってビジネススタイルにもなじむ。ラギッドでありながら、どこか洗練されているバランス感が魅力である。


一方のBR‐05 ブラック セラミックは、より緩やかなアールを設けたスクエアケースと、その内側に配されたダイヤルの調和が美しい。さらに、ケースとブレスレットが一体化した流麗なフォルムも魅力である。
この優美な方向性を後押しするのが、外装に用いられたセラミックの仕上げである。サテン(ヘアライン)仕上げを基調に、ポリッシュ仕上げをアクセント的に組み合わせることで、スポーティーかつドレッシーという独特のテイストを創出した。セラミック素材といえば、その特徴である光沢感を全面に押し出したデザインが多い中、この控えめな艶感が現代的で、気が利いている。タウンユースに似合うのはもちろんのこと、ビジネスシーンでも過度に主張することがない。


BR‐03とBR‐05、両者の印象は大きく異なる。前者は計器由来の力強いアイコンであり、後者は都会的に磨かれたスポーティーウォッチである。だが、根底にある美意識は共通している。視認性、機能美、スクエアとラウンドの調和、そして無駄を削ぎ落とした明快さ。どんな方向に振っても、ベル&ロスが手がけるとどこか洗練されて見える。そこに、このメゾンのシグネチャーがある。
根っからの時計好きがデザインコードを変えた
ベル&ロスの魅力は、単にデザイン性に優れた時計メゾンという点にとどまらない。歴史をさかのぼると、このメゾンが高級時計の世界に与えた影響が見えてくる。
ベル&ロスがフランス・パリで創業したのは1994年のこと。それまで長らく高級時計の世界では、気品、品格、華やかさ、豪華さといった価値が重んじられてきた。高級時計といえば、ケースは薄型で小型、素材はゴールドかプラチナ、デザインはクラシックを基調とすべし、といったように。
そこに登場したのが、新進気鋭のベル&ロスだった。スイスやドイツのブランドが中心となってきた高級時計のデザインコードに、フランスならではの新風を吹き込んだ。原動力となったのは、メゾンを共同創業した2人――元バンカーのカルロス・ロシロと、デザイナーとして活躍していたブルーノ・ベラミッシュ――の時計愛である。子どもの頃から航空機好きで、根っからの時計好きだった2人が目指したのは「自分たちが本当に欲しい時計をつくる」ことだった。
イノベーションは周辺から起こる、とよく聞くが、彼らもまた高級時計製造に新しく参入したからこそ、前例にとらわれないしなやかな発想で、自分たちらしいウォッチデザインを描くことができたのだろう。プロフェッショナルツールに由来しながら、ライフスタイルとの距離も近い。実用時計でありながら、ファッショナブルに洗練されている。ラグジュアリーでありながら、遊び心がある。そうした独自のバランスによって、ベル&ロスは高級時計のデザイン領域を押し広げてきた。
現代の高級時計の世界に目を向けると、デザインの方向性はさまざまで、その表現の多彩さにも目を見張るものがある。ラグジュアリーの定義や価値観は時代ごとに変容するが、高級時計の現代的なスタイリングという点において、そのパイオニア的な一端を担ったのがベル&ロスだったと言っても決して過言ではない。
ベル&ロスの世界観がさらに拡大。2026年注目の新作
こうしたメゾンの理念やデザインコードは、もちろん最新作にも受け継がれている。2026年の新作として注目したいのが、「BR‐03 スケルトン スティール」と「BR‐05 36mm ブルー ダイヤモンド イーグル」である。
まず「BR‐03 スケルトン スティール」は、ベル&ロスらしいスクエアケースに、スケルトン仕様のメカニズムを組み合わせたモデルである。機械の構造を見せながらも、表情はあくまでシャープでモダン。スケルトンウォッチにありがちな装飾性の強さよりも、計器やマシンを思わせる透明感が際立つ。スティールケースの硬質感と、内部構造の奥行き。その組み合わせが、ラギッドでありながら軽快な印象を生んでいる。

一方の「BR‐05 36mm ブルー ダイヤモンド イーグル」は、ベル&ロスの都会的な感性を、よりエレガントな方向へ広げた一本である。BR‐05らしい一体型ブレスレットの流麗なフォルムに、ブルーの文字盤とダイヤモンドの輝きが加わる。華やかさはあるが、過剰ではない。クリーンでモダンなたたずまいは、ビジネススタイルにも自然になじむ。

メカニカルな魅力を現代的に見せるBR‐03に、都会的なエレガンスをまとったBR‐05。方向性は異なるものの、どちらにもベル&ロスらしい“あか抜け感”がある。機能に根差したデザインを、時代の空気に合わせてしなやかに更新していくこと。そこに、このブランドの真骨頂がある。
それは、変化が多い今という時代で、自らの仕事やスタイルを更新し続けるビジネスパーソンの姿にも重なって見える。確かな軸を持ちながら、時代に合わせて軽やかに変わっていく。ベル&ロスの時計は、そんな大人の感性を手元でさりげなく物語る存在となる。

photograph:Kazuteru Takahashi
edit & text:d・e・w
