フィンテックの経営から、家族経営の時計ブランドへ

ビアンシェの始まりは2017年のこと。創業者のロドルフォ・フェスタ・ビアンシェは、フィンテック業界で成功を収めたイタリア出身の起業家であり、若い頃から機械式時計に情熱を注ぐコレクターでもあった。

やがて念願の時計ブランドを立ち上げるため、それまでの事業を売却し、時計づくりの世界へと踏み出す。2019年には、当時世界最大の時計見本市だったバーゼルワールドで、プロトタイプを発表。2023年には、スイス時計産業の中心地、ラ・ショー・ド・フォンに構えた自社工房でマニュファクチュール・キャリバーを完成させた。会社設立からおよそ6年で、自ら機構を設計・製造する体制へと歩を進めたことになる。

その歩みを支えてきたのが、妻エマニュエルと3人の息子たち。フランス生まれのエマニュエルは、音楽や絵画に情熱を持ち、ジャーナリストとして活動した経歴を持つ。現在は3人の息子もそれぞれの役割を担い、家族5人でブランドを運営している。イタリア出身の起業家と、フランス出身のジャーナリスト、さらにスイスの精密な時計づくりが相まって、ビアンシェならではのアイデンティティーを形づくっている。

ロドルフォ・フェスタ・ビアンシェ(右)とエマニュエル・フェスタ・ビアンシェ
ビアンシェのファウンダーであるロドルフォ・フェスタ・ビアンシェ(右)とエマニュエル・フェスタ・ビアンシェ

「トゥールビヨンしかつくらない」という潔さ

ビアンシェの時計づくりは、この上ないほど明快だ。トゥールビヨンウォッチしかつくらないのである。

トゥールビヨンは、姿勢差によって重力が脱進機にもたらす誤差を平均化するために考案された複雑機構。200年以上の歴史を持ち、現在では高度なメカニズムと視覚的な美しさから、高級機械式時計を象徴する存在の一つとなっている。

多くのブランドが、幅広いコレクションの頂点的な一角にトゥールビヨンを据えるのに対し、ビアンシェは最初からこの機構だけに照準を合わせた。時計機構の種類を増やすのではなく、トゥールビヨンをどこまで進化させられるか。その一点を追求するブランドなのである。

時計
ラウンド形ケースを備える「ウルトラフィーノ・ロトンド」。60秒で1回転するフライングトゥールビヨンを備える。自動巻きながらケース厚は8.9mmに抑えた。ケースとベゼルの間にのぞくスカイブルーのリングが、イタリアらしい軽妙感を添える。ケース、ブレスレットはチタン。ケース径39.5mm。自動巻き。10気圧防水。ラバーストラップが付属。1375万円(税込み)

目指すのは「薄くて壊れにくい」トゥールビヨン

トゥールビヨンが珍しくなくなった現在、ただ単につくるだけでは何の変哲もないが、ビアンシェが追求するのは、薄さとタフさの両立である。

代表的な「ウルトラフィーノ」は、その名が示すとおり超薄型。しかも自動巻きである。薄いケースの限られたスペースに、一定の厚みを必要とするローターと、回転するトゥールビヨンキャリッジを収めるのは容易ではない。ビアンシェは、その難題に挑みながら、さらに5000Gの耐衝撃性も確保した。

素材にも、微細なチタンダストを融合した独自の高密度カーボンや、グレード5チタンを採用。軽さと強度を追求している。繊細な複雑時計を眺めて楽しむのではなく、実際に着用して活動できる時計であることが、ビアンシェの目指すトゥールビヨン像である。

時計
トノー形ケースの「ウルトラフィーノ・トノー」。こちらは高密度カーボンの外装に、赤を利かせたデザイン。モータースポーツを思わせるような前衛的な雰囲気が魅力。前出の「ロトンド」と併せて、ストラップやブレスレットの付け替えが容易なシステムを備える。ケース、ブレスレットはカーボン。ケースサイズ47.5×40mm。自動巻き。5気圧防水。ラバーストラップが付属。1485万円(税込み)

ビアンシェは、F1ドライバーのエステバン・オコンら、多くの一流アスリートとパートナーシップを結ぶが、それも「日常で使えるトゥールビヨン」という思想の延長線上にある。新進ブランドのなかには、老舗と差別化するために大胆な方針を打ち出すところも多いが、この突き抜けぶりはやはり異色である。

黄金比「1.618」が生み出す機構美

そして、ビアンシェの外観上の大きな特徴が、黄金比「1.618」とフィボナッチ数列を取り入れた設計である。

ブランドが掲げる哲学は、「フォルムがすべてを導き、機能がそれに応える」。この哲学をもとに、ケースだけでなく、ムーブメント、ブリッジ、ローターに至るまで、時計を構成する各部に黄金比とフィボナッチ数列を用いた。完成したメカニズムを美しい外装で包むのではなく、機構そのものを美しいプロポーションでつくるという発想である。オープンワークから見えるブリッジやトゥールビヨン、ローターも、一つの造形として構成されている。

キャリバー
自動巻きフライングトゥールビヨンのキャリバーUR01。香箱とトゥールビヨンは一直線上に配置しながら、それらを支えるブリッジなどは黄金比にのっとって設計されている

一方で、ムーブメントにはブリッジの面取り(アングラージュ)など、スイス時計製造の伝統に基づく手仕上げを施す。現代的なエンジニアリングと職人技を、一つの時計の中で巧みに共存させている点に、新進のイメージを覆すほどの成熟した時計づくりが見える。

気になるメンテナンスも順次国内対応へ

ビアンシェは、2026年8月3日から日本での正規販売もスタートし、「ウルトラフィーノ・ロトンド」「ウルトラフィーノ・トノー」など、今春のウォッチズ&ワンダーズ・ジュネーブで発表された新作も国内で展開される。

日本総代理店を務めるのは、ローラン・フェリエやローマン・ゴティエなど、主に独立系マイクロメゾンを取り扱う専門商社、スイスプライムブランズである。同社は自社内にアフターサービス部門を設け、各ブランドの研修を受けた時計技術者を抱える。ビアンシェについても、オーバーホールなどのメンテナンスを順次国内で対応する予定という。新進のブランドで、しかも複雑時計となると、アフターサービス体制が気になるものだが、その点でも信頼を置けるブランドと言っていいだろう。

問い合わせ情報

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スイスプライムブランズ
TEL:03‐6226‐4650

photograph:BIANCHET
edit & text:d・e・w