ファッションディレクターの青柳光則さんに、ビジネスシーンにふさわしいエグゼクティブのスーツの着こなしを提案してもらった。3回目は、ニッポンの粋を集めた五大陸のスーツを取り上げる。

昔ながらの職人の繊細な仕事がうかがえるスーツ

スーツは着る人の個性を引き立てると同時に、自己のアイデンティティを引き出すためのツールでもある。厳格なイギリス人は歴史と伝統ある仕立て服に身を包み、陽気なイタリア人はスマートで色気の溢れるスーツをまとう。ならば日本人はいかに。日本にも繊細な職人の技術で培われた、グローバルに通用するスーツがある。

五大陸のスーツには、日本国内の染色技術で染めた糸が使われている。「かせ染め」と呼ばれる糸の染色技法は、甘く巻いた糸束を高温で蒸しながら染めていく技法。発色は職人の勘だけが頼りで、じつに繊細。だが、この特殊な糸の巻き上げ方ができる職人は日本有数の毛織物産地、尾州でもほんのわずかしかおらず大量生産は不可能だという。

織りは国内の機屋が所有する稀少な低速織機を使う。空気を含ませるようにゆっくりと織り上げていくため、これもまた高速織機のように一日に数百メートルも織ることなどできない。そのかわりに生地にふっくらとした厚みと、日本固有の色出しが利いた美しい生地ができあがる。

西洋生まれのスーツでありながら、日本人にとって“しっくり”する趣があるのは五大陸ならでは。イタリアともイギリスとも異なる日本流に洗練されたスーツをまとって、海外からの大切なお客様を迎えれば、おもてなしの心も通じるに違いない。

日本の生地と日本の仕立てが醸す情緒あるスーツ

深みのあるネイビー。落ち着いた風合いの色柄に、日本の職人技術の粋が表れる。スーツ7万9000円、シャツ1万4000円、タイ1万4000円、チーフ参考商品(以上すべて五大陸)

シャツの生地は静岡・浜松で作られたもの。国内の最高峰といわれる産地で五大陸のために特別に誂えたものだ。遠州綿布と呼ばれる浜松のシャツ生地は、細い上質な糸を使いながらもふんわりとした仕上がりが特徴で、高温多湿な日本の気候に合うといわれる。ネクタイはしっかりと打ち込みの入ったシルク地に小花柄をあしらったもの。日本の伝統柄に通じる意匠は小紋柄を思わせ、スーツの色柄ともよく似合う。

そして服地は前述した通りに日本有数の毛織物産地、尾州産。この地に古くから伝わる伝統的な糸の染色技法を駆使して滋味深い発色に仕上げ、現存するだけでも稀少な低速織機を使って織り上げたものだ。遠目には無地だが近くで見るとマイクロチェックの織り柄入り。和柄の市松模様にも通ずる日本の粋をスーツという西洋由来の服でまとうのが、まさに和洋折衷の妙味といえるだろう。

シャツは遠州綿布、ネクタイは和の意匠にも通じる小花柄を合わせたVゾーン
かせ染めした糸を低速織機で織ることで、ニュアンスある生地が仕上がる

ファッションディレクター青柳光則からワンポイントアドバイス
「インポートブランドのスーツばかり重用されることが多いですが、日本にも優れたスーツはたくさんあります。五大陸はその名のとおり、英国の伝統、フランスの華やぎ、イタリアの粋、アメリカの合理性、そして日本の繊細を融合させたモノ作りで、インターナショナルに通用する優れたスーツを生み出すブランドです。日本伝統の毛織物技術、和装のセンスをモダンに取り入れていますし、サイズ感が日本人の体型に合っているところも魅力ですね」

styling:Mitsunori Aoyagi(Hamish)
photograph:Ryohei Watanabe
hair & make:Akira Nishihira
model:Kenji Kureyama(BARK IN STYLE)
edit & text:Yasuyuki Ikeda(zeroyon)