ファッションディレクターの青柳光則さんに、ビジネスシーンにふさわしいエグゼクティブのスーツの着こなしを提案してもらう当特集。10回目は、モードの最先端を駆け続けるアルマーニを取り上げる。
会社の顔となったなら、アルマーニが似合う頃
自社で開催するパーティーでのスピーチなど、晴れ舞台に上るときには、スポットライトを反射して、おのずと聴衆の視線を集めることができる光沢素材のスーツがいい。真に上質な生地ならば、細番手の糸と緻密な織りによって美しいドレープが生まれ、揺らぐ光の帯がさらにプレシャスな印象を醸しだす。
GIORGIO ARMANI(ジョルジオ アルマーニ)の名を知らない人はいないだろう。ミラノ大学の医学部に進みながらファッションデザイナーとして大成した彼は「マエストロのなかのマエストロ」とも称される人物だ。そのスタイルはモードの最先端であるのみならず、かつては医師の道を志し、人体のフォルムを知り尽くしたマエストロならではの理想的なシルエットである。
今回、着用しているのはノーブルな印象をたたえたチャコールグレーのスーツである。日本では礼装には黒服だが、欧米では静謐な雰囲気をかもし、かつ鎮魂の意味をもつグレーを着ることが一般的だ。大切なお客様を前にしてのスピーチやプレゼンテーションにグレーで臨むのは、インターナショナルなプロトコルにも準じたものだ。
グレーのスーツに白のドレスシャツ、グレーのタイと白地のポケットチーフは、人前で礼節を保ち、冷静沈着かつ理路整然と物事を語れる知性と品格ある人物を演出してくれる。
誰もが認めざるをえない、エグゼクティブの装い
スーツの元となる服には2種類あって、ポケットに埃や雨が入らないようフラップ(雨蓋)が付く屋外着とフラップがつかない室内着がある。ともにかつての貴族の執務服が、現代スーツの源流となったことを表している。アルマーニのジャケットはポケットにフラップがない、真一文字の両玉縁(りょうたまぶち)という仕様。これは室内着であることを物語るディテールで、室内での礼装などフォーマルな場に着るスーツであることを示すものだ。
グレースーツにグレーのネクタイの組み合わせは、前述の通りフォーマルに通じるコーディネート。ダークグレーのネクタイは、あえて織り柄入りを選んだ。サテンやツイルなど滑らかな無地のネクタイは、ときに先鋭的でモードなスタイリングに映ることがある。ましてやダークグレーを選んでは、ブラックスーツにブラックタイというハイエンドなモードスタイルにも見えてしまう。ここで柄のネクタイを選ぶことで、より落ち着いた印象になるため、ビジネスシーンでも使いやすくなるのである。
生地はグレーの無地だが、素材には杢調のメランジ感があることが分かる。これが光の加減でニュアンスある光沢とドレープを生む秘密だ。単色の無地より生地に立体感が出て高級感をかもすとともに、合わせるネクタイのトーンも薄いグレーから黒までと幅広い色合わせを可能にしてくれる。これがもし無地の単色グレーならば、同じトーンのグレー以外は胸元が浮いてしまうだろう。
ファッションディレクター青柳光則からワンポイントアドバイス
「イタリアで最も有名なブランドがジョルジオ アルマーニでしょう。人体のフォルムに沿った紳士服をつくる上で、いわゆるオートクチュールの手法は不可欠。これは生地をアイロンの熱で立体的に曲げ、伸ばし、形成したうえで縫っていく服作りの技法で、一着ずつ丁寧に仕立てるテーラーの技術なのですが、アルマーニは既製の紳士服で初めてこの手法を取り入れました。だからフィッティングが抜群にいいんです。そのうえ生地のセレクトもじつに巧い。時代の最先端に君臨し続ける巨匠の作品は、ビジネスエリートとして成功を求める人にこそ着ていただきたいと思います」
styling:Mitsunori Aoyagi(Hamish)
photograph:Ryohei Watanabe
hair & make:Akira Nishihira
model:Kenji Kureyama(BARK IN STYLE)
edit & text:Yasuyuki Ikeda(zeroyon)