目安となる“プライスバランス”をご提案します

こんにちは。 イメージングディレクターの高橋みどりです。

連載の第1回では、「男のセンスとは仕事のプレゼンテーション能力である」という話をいたしました。スーツを代表とするビジネスウェアは、いまや“自己表現”の一部。

特に欧米では、男性同士であっても、日常会話でファッションが話題になるのは珍しいことではありません。それは彼らが「ファッションのセンスも、ビジネスにおけるプレゼンテーション能力の一部」であると理解しているから。プロジェクトでチームメンバーを選ぶときにも仕事のスキルが同じであれば、当然ファッションセンスがいい人が抜擢されます。

そして彼らは必ず、“自分のポジションに見合ったスーツ”を着ています。

日本でも、上司や取引先の担当者が女性である場合は常に増して、あなたにも厳しい目が向けられています。年収やポジションに相応のものを身につけることは、ご自信が想像している以上に大切なことです。そして私はもうひとつ、それぞれのアイテムに適切なプライスバランスがあると考えています。

例えば、月給が50万円だったら、その20%……つまり10万円前後のスーツをお召しになるのが目安ではないでしょうか。シャツはスーツの20~25%の2万円から2万5000円前後。そして靴はスーツの40%程、つまり4万円から高くても5万円位のものが適切ということです。

逆にいえば、月給が30万円で5万円のスーツを着ているのに、10万円もする靴を履く必要はないということです。高すぎても安すぎても、プライスバランスが崩れているという意味においては同じ。むしろ、不相応に高価な靴を履くのも「バランスが悪い」と認識すべきです。

大切なことは、“スーツも靴も、身につけるアイテムのすべて”は、収入が上がるのに応じて、偏りなくそれなりのものを身につけていくこと。そうすることで何かひとつのアイテムが目立ちすぎることなく、“その人らしく”“その人のポジションにふさわしい”全体が調和した、嫌味のないスタイルが完成します。

それができれば周囲に対しても、存在感がありながらファッションが前に出すぎず、知的な印象を与えられるはず。

ここ数年、オーダーですらスーツが4万円くらいの価格から手に入るようになりました。確かに以前と比べると、素材や仕立てがよくなってはいますが、私自身は役職につき、収入が十分あるような方には、低価格のスーツをあまりおすすめしません。

「年齢とともに良いスーツに袖を通す」ことで得られる自信や、「良いものを見極める目」を養うことは、得難い経験だと思うからです。これはある意味、“食”の体験と似ていますね。一流と呼ばれるレストランでの食体験は、積み重ねることで味覚を育てる訓練になるものです。ファストフードから得られる食体験とは、まったく異なるものです。

もちろん、20代の男性がファストブランドのスーツを着ることを否定するわけではありません。ただ、若いときからポジションが上がるとともにスーツもステップアップし、内面の自信が少しずつ外見にも表れていく……こんな成長の過程がファッションにもあることを、覚えておいていただければうれしいです。

年齢・収入にあわせて、こんな靴のセレクトはいかが?

ストレートチップは万能の一足。外回りも多い30代におすすめなのは雨にも強いラバーソール。3万8000円(税別)2点ともバーニーズ ニューヨーク/バーニーズ ニューヨーク カスタマーセンター
40代ならばこのくらいの価格が目安。5万7000円(税別) バーニーズ ニューヨーク/バーニーズ ニューヨーク カスタマーセンター
50代の足元を飾るにふさわしい一足。7万8000円(税別)フランチェスコべニーニョ/バーニーズ ニューヨーク カスタマーセンター

“これ見よがし”ほど、格好悪いものはない

一点、あえて苦言を申しあげますが、ビジネススタイルにおいて、“これ見よがし”なアイテムくらい、格好悪いものはないのです。

「ファッションを含めて、バランスのいい人は仕事ができる」というのが私の持論。バランスがいい人とは、「自分を客観視できて、わきまえている」ことを意味しますし、反対にファッションのバランスが悪い人は、「仕事でも客観的な判断能力に欠けるのでは?」とついつい考えてしまいます。

本当は仕事ができる人なのに、こんな誤解をされるのは、とてももったいないですよね。

腕時計も靴も、過剰に高級感やデザインが誇張されているものよりも、「控えめだけどスーツとのバランスがよい」ものを選び身につけている人に洗練されたセンスを感じるのは、私だけではないはずです。個性的なデザインの靴や腕時計は、ぜひ休日用としてお楽しみになってください。

繰り返しますが、「ファッションはバランス」です。この点を心得ていただくだけでも、装いで「仕事のできる」雰囲気を演出することはとても簡単。お買い物やコーディネートの際には、覚えておいてくださいね。

styling:Midori Takahashi
text:Maki Kasai
photograph:kuma*