手袋界の最高峰ブランドをその手に
日増しに寒さが増してくるこの時季、スーツとコートは上質なものを纏っても、手袋が子供っぽく貧相なものでは画竜点睛を欠いてしまう。目立つところではないだけに“手”を抜きがちであるが、細部への配慮が行き届いてこそ紳士といえよう。コート、マフラー、そして手袋。冬のビジネススタイルには欠かせない三種の神器は、妥協することなく本物志向で選ぶべきだ。
選ぶべき手袋は、華美でない革素材に限る。紡毛系のスーツに合い、ウールやメルトンのコートとの相性もいい。保温性や耐久性に優れ、手にしっくり馴染むフィット感があるものを選択したい。その点、1777年の創業以来、レザーグローブブランドとして名高いデンツなら信頼が置ける。ひとつの手袋を製作するのに、熟練の職人が32もの工程を経て丹念に仕上げているので、フィット感や革の質感は極上。ハンドソーイングを多用しているのも、“シークレットフィット”と呼ばれる、マシンメイドでは表現できないフィット感が生まれるからこそ。素材には、ペッカリーという南米の熱帯雨林に生息する猪に似た動物の革を使っている。厚みがあるのに柔らかで、水汚れにも強く、硬くなりにくいという特徴を持ちあわせるハイエンドなレザーだ。
使い込めば、色の深みが増し、質感もなめらかになって、自分だけのエイジングが楽しめる。暖かい季節がくるまで手放すことはできなくなるし、コートの胸ポケットにグローブを挿すなんて使い方も粋だ。コートの存在感に負けないポケットチーフのような役割を果たしてくれるはずだ。
text:Masato Nachi
photograph:Kazuya Aoki
styling:Yoshiki Araki