フレンチスタイルの特徴とは?

イタリアンスタイルとブリティッシュスタイル、現代のメンズウェアではこのふたつが主流となっている。では地理的にイタリアと英国の中間に位置するフランスはどうか。やはり、そこにも独自のビスポーク・スタイルがある。イタリアよりは構築的だが、英国よりは柔らかく、双方から影響を受けたスタイルにはフランスの服飾文化を反映した独特の華やかさがある。こうしたフレンチスタイルを代表するテーラーが創業1880年のCifonelli(チフォネリ)だ。

チフォネリは1880年にローマで創業。1926年にパリに移り、サロンとアトリエをパリのマルブフ通りに1936年にオープンした。この地で80年以上にわたり、フランスの注文紳士服を牽引し、多くの著名人がチフォネリを愛してきた。1992年から2008年までエルメスのビスポークを手がけるなど、フランスを代表するシュール・ムジュール(sur-mesureフランス語でビスポークを意味する)テーラーだ。

袖山の盛り上がったラインに弓なりのコンケーブショルダー、絞ったウェストラインにややフレアーに広がったジャケットと袖のラインがパリの華やかさを演出している

「モード界の皇帝」とも言われるデザイナーのカール・ラガーフェルドに「100メートル先からでも『チフォネリ』の肩のラインはわかる」と言わしめた、大きく張り出した独特のショルダーラインがチフォネリのシグネチャーだ。

同じように袖山を大きめに取るスタイルに、イタリア南部ナポリのスタイルで、ショルダーパッドを用いないマヌカ・マッピーナがある。それに対して、チフォネリのスタイルは、薄めのショルダーパッドを用いて張り出した袖山に、フランスのテーラリングの特徴のひとつであるコンケーブショルダー(弓なりに反ったショルダーライン)が張り出した袖山の効果を強調している。フランスならではのデザイン的な華やかさ、フランスのスーツでしか表現できないエレガンスがある。

経営者であり、カッターのマッシモ・チフォネリ(左)とロレンツォ・チフォネリ(右)。パリのマルブフ通りにある趣のあるサロンではチフォネリの歴史を感じることができる

2003年から創業者から四代目にあたるロレンツォ・チフォネリと彼のいとこマッシモ・チフォネリによって経営されており、彼らがすべての顧客の採寸、型紙を製作、生地の裁断までを担当。約40人の職人が働くパリ最大規模のアトリエでは採寸から完成まで、すべての工程がここで行われている。

デザインはチフォネリの歴史に由来したものだ。二代目アルチューロ・チフォネリは当時、紳士服の製法の最先端であった英国、ロンドンの『ミニスターズ・カッティング・アカデミー』で仕立ての製法を学んだ。こうして構造をイギリスのテーラリングから学び、縫製やデザインは祖国イタリアの伝統と技術を継承、そこにフランス独特の色彩やデザイン感覚を組み合わせて作り出されたのがチフォネリのハウススタイルなのだ。

カシミアやウールを用いた贅沢なスポーツジャケットもチフォネリが得意とするもののひとつ。ボタンを留めていない時に裏返るラペルの遊び心あるデザインは、高いビスポークの技術があるからこそ実現できるものだ

チフォネリではクラシックなスーツばかりでなく、サファリジャケットやデニム素材など、現代のライフスタイルに合わせたビスポーク・スーツのモダン化、カジュアル化を提唱している。スポーツタイプのポケットなど、凝ったディテールにこそ、チフォネリの伝統と歴史に培われた高い技術が生きている。

また、シュール・ムジュールのほかにも、既製服とMTM(Made to Measure 日本ではパターンオーダー)、シューズといったアクセサリーを販売する店舗をパリとロンドンに展開。日本では伊勢丹新宿店メンズ館、バーニーズ ニューヨークなどで取り扱いがあり、定期的に彼らが訪れるトランクショーも開催されている。

イメージキャラクターにはサザビーズ・インターナショナル・リアルティ・フランスのCEOであるアレキサンダー・クロフト氏を起用。チフォネリ流ラグジュアリーな世界を紹介している

長谷川喜美/Yoshimi Hasegawa
ジャーナリスト。イギリス、イタリアを中心にヨーロッパの魅力を文化の視点から紹介。メンズスタイル、車、ウィスキー等に関する記事を雑誌を中心に執筆。最新刊『サルトリア・イタリアーナ(日本語版)』(万来舎)を2018年3月に上梓。今年、英語とイタリア語の世界3カ国語で出版。著書に『サヴィル・ロウ』『ハリスツィードとアランセーター』『ビスポーク・スタイル』『英国王室御用達』など。

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Cifonelli/チフォネリ