世界最古の帽子メーカーによる究極の完成形
ミロのヴィーナスにモナ・リザ、パリの凱旋門、アップルのロゴなど、世に広く知られたデザインには共通するものがある。完璧と謳われる美しさ。そう、黄金比だ。人が否応なしに美しいと感じてしまう比率が、前述のマスターピースに隠されている。普段目にするものにも、ビジネスシーンにおいて使用する名刺やカードに、人が美しいと感じる比率が活用されている。そして、今回紹介する帽子にも、見る者に違和感を抱かせない普遍的な美が宿る。
世界最古と言われる帽子屋、ジェームスロックのハットはまさに“マスターピース”と呼べる完璧なシルエットをもつ。その由縁は、300年以上形や作業工程を変えることなく、愚直に同じものを丁寧に作り続けてきたからこそ。それは偉人たちに愛されてきた歴史が物語る。チャップリン、ネルソン提督、オスカー・ワイルド、ジョン・レノンなど、名だたる傑物たちのパートナーとして傍らにあった。そして、エディンバラ公とプリンス・オブ・ウェールズ殿下から2つのロイヤルワラントが授与され、英国王室御用達としても誉れ高い。こちらのハットは、アメリカ人俳優として初めて王室からサーの称号を贈られた、ダグラス・フェアバンクス・ジュニアにちなんだ名が付与されている。最高品質の素材、しっかりとしたブリム、エッジの効いたシルエットなど、長年培われた叡智が詰まっている。
歴史作家の塩野七生は言う。「帽子は顔に陰影を与える。頭に乗せるだけなのに、その人の性格を際立たせてくれる」と。ジェームスロックのハットを被ったその日から、あなたのイメージが刷新されるかもしれない。
text:Masato Nachi
photograph:Kazuya Aoki
styling:Yoshiki Araki