美しさと機能性を兼備した“装う”傘

稀代の経営者、松下幸之助は傘についてこんな言葉を残している。「雨が降れば傘をさそう。傘がなければ、一度は濡れるのも仕方がない。ただ、雨があがるのを待って、二度と再び雨に濡れない用意だけは心がけたい。雨の傘、仕事の傘、人生の傘、いずれにしても傘は大事なものである」。人生における好不調をたとえた比喩だが、実際的な意味合いにおいても傘は雨天時の必携品であることは言うまでもない。ただし、オンタイムでいくら上質なスーツや靴を着用していても、雨の日に手にする傘が透明なビニール傘では画竜点睛を欠く。

皇室御用達の傘ブランドとしても歴史のある前原光榮商店の傘は、まさにエグゼクティブにふさわしい逸品であると言えよう。生地を織る、骨を組む、加工する、手元を仕上げる、すべての工程にこだわりをもち、熟練の職人の匠の技が息づく傘は、実用品以上の価値を持ち合わせる。広げたときのシルエットは、直線と曲線が完璧なバランスで成立し、ただただ美しい。代表の前原氏が「傘は実用一辺倒ではなく、装うものだということを忘れてはいけない」と述べているように、スーツスタイルに品格を加えてくれる一本となりうる。

余談だが、JR東日本によると傘の忘れ物は年間で約30万本(!)にも及ぶという。それは、雨を避けるための使い途しか意識が向いていないから起こるのだろう。されど、価値の高い前原光榮商店の傘を手にすれば、雨天時の装いの一部として片時も忘れることなく、所作まで美しくいられる心の余裕も生まれるはずだ。

前原光榮商店の真骨頂とも言える16本の親骨が支える。開いた時の形が美しく、真円に近いため雨を防ぎやすく、強度が増すという利点も
“チェス”と名づけられたシリーズだけあり、チェスボードの盤面のようなジャカード織のポリエステル生地が丁寧に縫い合わせられている
手元の素材には“寒竹”と呼ばれる、竹の地中部にある地下茎を加工したものが用いられている。使い込むほどに味わい深く変化していく
問い合わせ情報

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前原光榮商店
TEL:03‐3863‐4617

text:Masato Nachi
photograph:Kazuya Aoki
styling:Yoshiki Araki