服装は気づかい

ずっと半導体部品の営業畑で、大手電機メーカーなど比較的堅い業界がお得意先でしたから、派手な服は着たことがありません。駆け出しの頃は、営業しながら納品するといった調子で、靴がすぐボロボロになるほど飛び回っていました。スーツもジャージー感覚でしたね(笑)。

それでも「服装に気をつかっているな」と見られるように清潔感を心がけました。仕事の服選びは、相手の目にどう映るか。われわれ製造業は、落ち着いた雰囲気や信頼感に結びつくことが大切なのです。

この基本は、トップになっても変わりません。スーツは、濃紺やグレーのダークスーツがほとんど。茶系はちょっと難しいですね。自宅近くに銀座英國屋があっていつもそこであつらえます。結婚して間もない30代初めに「営業マンはブランド・イメージにつながる会社の代表だ」と意識してセミオーダーを着るようになりました。47歳で執行役員になってからはフルオーダーです。

私は自社工場をまわることも多く、夜は畳の部屋で社員たちと車座になってよく酒を酌み交わします。京セラ名物の「コンパ」です。鍋などを囲んで社員とコミュニケーションを図る場なので、ファッション誌から抜け出たような格好では落ち着きません。一方、日中には他社のトップと面談する場合もあるので、いつでもお客様に会えて、コンパにも出られる格好がベストになります。やはり落ち着きがあって機能性も高いダークスーツですね。

スーツは47歳で執行役員になって以来、フルオーダー。好みやサイズを知り尽くしているなじみのテーラーで控え目な色と実用性のある生地を見立ててもらう

シャツは自由に

ワイシャツは、会長になってからカラーシャツやストライプシャツをよく着るようになりました。社長時代には白に決めていましたが、私がそればかり着ていたら忖度なのか、幹部社員を中心に真似る者が出てきたんです。しかし、今後は多様性や自由な発想が重要な時代になる。「もっと自由になろうよ」という思いを込めて、率先してカラーシャツやストライプシャツを着ているのです。

身に着けるもので一番こだわりがあるのはカフリンクスかもしれません。新入社員の頃から愛用し、最初は父からお下がりでもらったジョージ・ジェンセンでした。それ以来ずっとジェンセンで、家内もこのブランドが好きなのです。カフスは当社でも製造販売しているので、もちろん自社製も使用しています。

愛用の逸品~入社以来、使い続ける名刺入れ

名刺入れは、入社時に買ったものです。高級品ではなく、数千円でした。そのなかには最初の営業担当から現在の会長に至るまで、40年間の名刺をすべて入れてきました。現在でも使っています。鞄も25年ほど前に十数万円で買ったゴールドファイルを使っています。傷んだら修繕し、色も塗り替え、直し直し使う。何でも大事に使って、すぐに買い替えないのが私のスタイルです。

山口悟郎/Goro Yamaguchi
京セラ代表取締役会長
1956年生まれ。78年に同志社大学工学部を卒業後、京都セラミック(現・京セラ)入社。半導体部品の営業職が長く、半導体部品統括営業部長等を経て、2009年取締役執行役員常務に就任。13年から京セラ代表取締役社長を務め、17年から現職。

text:Top Communication
photograph: Kunihiro Fukumori
hair & make: Aya Kajio