職人技とデザイン性を高度なレベルで両立

これまでに英国靴とイタリア靴をご紹介してきたが、今回はそのどちらにも似ていない、アフォーダブルでありながらも愛玩に値し、かつ長く愛用することのできる「用の美」を極めたフランス靴2足にスポットを当てよう。

フランス靴といえば、「履くアート」としてのベルルッティやピエール コルテ、オーベルシー、そして英国発祥でありながら、今日ではエルメスの傘下で至宝の靴をつくり出すジョン ロブなど、マニア垂涎のブランドの枚挙に暇がない。いずれの靴も、履かずとも手に持って、ためつすがめつうっとりと鑑賞するに足る美しさだからこそ、今回はセレクションに悩んだ。PRESIDENT STYLEの読者諸兄には、靴を眺めるだけでなく実際に履いて、仕事に遊びにとアクティブに繰り出して欲しいと願うからだ。

眺めて美しく、丁寧に手入れするに値し、履いて歩きやすく、しかも丈夫で長持ちする。そんな「用の美」を極めたものとしての観点で、今回はON/OFFの靴を選んでみた。それが「フランスの良心」、ジェイエムウエストンとパラブーツである。

どちらも奇をてらうことのない伝統的な靴づくりのなかに、確かな審美眼が、気品を漂わせるエスプリが見え隠れする。にもかかわらず、それはブルジョワのための瀟洒な贅沢品では決してなく、実際に履いて頼りになる実用品であるという点が、自らの足で歩き、仕事をすることをよしとする世界のエグゼクティブたちからの熱い支持に繋がっているのだろう。

ブランドの顔にしてローファーの代名詞

ジェイエムウエストンの「180 シグニチャーローファー」。デニムからジャケパンスタイルまで、あらゆるコーディネイトをエレガントにまとめてくれる。J.M. WESTON〈180 SIGNATURE LOAFER〉10万円(税別)

トラッドスタイルを経てきた者はみな、ジェイエムウエストンの名を、憧憬を込めて口にする。デニムに「180 シグニチャーローファー」というコーディネイトは、1960年代にアメリカ、フランスで火がついてから欧米各国で流行し、その後、日本でも「最もエレガントなカジュアルスタイル」として支持されたものだ。

数多あるシューズブランドの中で、なぜジェイエムウエストンなのか? という疑問があるかもしれないが、その理由ならいくらでも挙げられる。エドゥアール・ブランシャールが創業したのは1891年。当初は昔ながらの靴づくりを手掛けてきたが、息子のユージェーヌはより合理的かつ現代的な靴づくりを学ぶべく渡米。3年間にわたる修業の末に持ち帰ったのが、現代のスタンダードとなっているグッドイヤー製法と、アメリカ靴のシグニチャースタイルとしてのローファーであった。

「180 シグニチャーローファー」は、本国アメリカで製造されるローファーより洗練度を、つまり繊細さと品質を高めたフレンチスタイルで本歌取りに成功した。同ブランドの哲学としての細かなサイズ展開(特にレングスだけでなく幅広いウィズのバリエーションを持つことで知られる)により、誰もが自分にぴったりの一足を見つけることができた。サイズ違いによるユニセックス展開で、男女ともにファン層を広げてきたことも、この靴が定番中の定番となった理由のひとつだろう。

またそのアッパー素材は、フランスの名門タンナー、デュプイ社がベジタブルタンニンで仕上げる極上のカーフレザーであり、見た目の美しさはもとより、しなやかな履き心地や耐久性でも高く評価されてきた。自社タナリーで製造しているレザーソールは、耐久性と美しさで知られている。ジェイエムウエストンは皮革の生産から自社で手掛ける数少ないシューズブランドとしても、世の靴好きの心を射止めてきたのである。

さまざまな人気モデルをロングセラーとして持つジェイエムウエストンであるが、合わせるシーンを、スタイルを選ばない「180 シグニチャーローファー」は、1足は持っていたい男の銘品なのである。

「180 シグニチャーローファー」のサイドビュー。その素性の良さは端正なシルエットに如実に表れている

着こなしで言えば、先述したようにこの「180 シグニチャーローファー」はまさにマルチプレーヤーとしてONにもOFFにも履き回すことができる。だが今回は、OFFには「パラブーツ」という名靴があるので、提言したいのはやはりネイビージャケットとグレーのウールパンツのようなトラッドスタイルに合わせるコーディネイトだ。シャツはサックスブルー、タイはレジメンタル。奇をてらわない、あえて王道そのままの着こなしでこそ際立つ「本物のエレガンス」を楽しんでみてはいかがだろうか。

自社タナリーによるレザーソール。歩行時の返りが良く、しかも耐久性にも優れる

カジュアルシューズの代表格

スニーカー感覚で履けるラバーソールのカジュアルシューズの代表格が、このデッキシューズ。パラブーツの定番のひとつだ

フランス人はヴァカンスを愛する。夏の声を聞けば一路海を目指して南下し、コートダジュール辺りのリゾート地は、もぬけの殻となったパリよりも賑わう。そんなヴァカンスシーズンのフランス人たちの足元を飾るのが、国民的シューズブランドであるパラブーツの定番デッキシューズ「バース」である。

素足にサンダル感覚でつっかけて、カフェにも入れば海辺も歩く。スニーカー感覚で履ける革靴としてのデッキシューズは、大人の休日用に最適な選択肢と言えるだろう。船のデッキで滑らないようにつくられたしなやか、かつグリップ力の高いラバーソールは、フランス海軍御用達。ヨットや釣りなどボート遊びもお手の物だ。さらに言えば、ドライビングシューズとしても機能をいかんなく発揮してくれる。クルマに乗ってパリを出てから南仏の海で遊ぶヴァカンスの日々まで、まさにこれ1足で済ませられるのだ。

「バース」のサイドビュー。オーセンティックな定番だからこそ、数多くの色や素材のバリエーションを持つ。PARABOOT〈BARTH〉2万7千円(税別)

1908年創業のパラブーツの社名は、ブラジルのパラ港に由来する。ここから輸出される天然ラテックスを使用したラバーソールの登山靴で評価を得て、のちに有名なチロリアンシューズなどタウンユースにも使えるカジュアルシューズをラインナップに加えていく。近年ではよりフォーマルなビジネスシューズも多く手がけ、世界中にファンを持つ。実用性に根ざした高い機能性と耐久性、そして洗練度を高めたデザインの組み合わせは、ビジネスシューズ、カジュアルシューズともに「最強の実用靴」としての評価を欲しいままにしている。

自社生産される「バース」のMARINEラバーソール。濡れた船のデッキでも滑りにくく、足音が出ないように工夫された独自のパターンを持つ

アッパーには水や汚れに強いオイルドレザーを採用しており、メンテナンスも簡単。豊富なカラーバリエーションの中から、好みやスタイルに合わせて選べる点も人気の理由のひとつとなっている。

また、今回ご紹介するやわらかなディアスキンのように、時々魅力ある異素材を使ったモデルが登場することでも愛用者を喜ばせ、リピーターとして取り込んでいる。かくいう筆者も、色違いで3足を履き回している。

普段づかいならばデニムやチノパンとも相性は抜群だが、やはり海辺のリゾートでフランスらしいバスクシャツや色味の綺麗なショートパンツと合わせるのが気分であろう。価格的にも入門しやすいモデルなので、ぜひ読者諸兄にもお薦めしたい。

問い合わせ情報

J.M. WESTON 青山店
TEL:03‐6805‐1691
公式サイト

パラブーツ 青山店
TEL:03‐5766‐6688
公式サイト

text:Shigekazu Ohno(lefthands)
photograph:Takao Ota