かつてスーツの本場イギリスでは、職業ごとに基本となるスーツがあった。たとえば銀行員ならネイビーのピンストライプスーツである。日本でもチャコールグレーのスーツは、昭和のサラリーマンのイメージとして浸透しているはずだ。スーツにはシャツとネクタイ、ポケットチーフ、膝までの靴下とレースアップの革靴がセットになる。これが男のビジネススタイルの基本であることは、先進国では共通の認識といえるだろう。

「海外のビジネスマンのスーツ姿がカッコよく見えるのは、トータルバランスがいいからですよ。彼らは幼い頃から、親から子、子から孫へと服装術を受け継いでいるんです。色数を抑えて着ることや、紺、茶、グレーといった基本色の使い方は、誰でも当たり前のように知っているんです」と仙田さんは話す。

自分の親から服装の着こなしについて教わった記憶がある日本人は少ないのではないだろうか。筆者にしても「そんな穴の空いたジーパンはいて……」といったダメ出しの記憶しかない。スーツを着るようになってもサラリーマンだった父親から、コーディネートについてのアドバイスを受けた記憶はない。

「だいたいどこの国でも基本的なコーディネートのルールは均質化していますが、国ごとの気質が違うのでしょうか、少しずつトーンが違うように思います。イタリア人はネイビースーツを好みますが、いわゆる紺よりやや明るいトーンが好まれます。イギリスはダークトーンが好まれるようで、ダークネイビーやチャコールグレーが多いです。パリは黒っぽい服が好きなんじゃないでしょうか」

具体的な見識があるからこそ、仙田さんの話は面白い。精力的に海外に出て、現地で直接対話する仕事の仕方は、若い頃、飛び込みで大手の百貨店に営業をかけてきたスタイルと変わりない。舞台が東京から世界へ移っただけなのだろう。

そこで海外のファッショントレンドにも詳しい仙田さんに、今選ぶべきネクタイについてうかがってみたところ、具体的な色柄が3種類挙がった。順を追って紹介しよう。

2~3色の太縞ストライプタイ

一般的に「レジメンタルタイ」と呼ばれるが、「レジメンタル」とは英国陸軍の所属を表すストライプのこと。英国式は(向かって)左下がり、米国式は右下がりとなる。ストライプタイは若々しい印象があり、場合によっては学生風に見えることもあるので色柄の選びには注意したい。

「多色使いのストライプはコーディネートが難しいので2~3色のものを選びます。縞の色はスーツの色から拾うと胸元がまとまって見えるので、ネイビースーツに合わせるならネイビーの縞が入っているものを選ばれるとよいでしょう。最近では細縞のストライプより太縞のものが人気です。縞幅が2~3cmのものや、細縞と太縞がミックスされているものなら、大人っぽく見えると思いますよ」

柄“飛び”が大きく、動きのある小紋タイ

小紋柄はワンランク上のステータスを表現するのに適している。社内でも地位のある人に似合うネクタイであり、若い人でも年齢よりも落ち着いて見せることができる。そのため童顔のビジネスマンが活用すれば、仕事の場面でも信頼を寄せてもらえるはずだ。

「いま小紋柄を選ぶなら、柄が詰まったものよりも、小紋の柄と柄に距離がある“飛びの大きい”小紋を選ぶのがいいでしょう。それと小紋柄が整然と並ぶより、回転しながらランダムな印象で配置されているものも胸元に動きが出せるので、行動派の印象になります。ベースの色はネイビー系が使いやすいと思いますが、柄も色数を使いすぎないほうが、合わせるスーツの色を選ぶことがありません」

弔事用に見えないブラックタイ

ブラック地に小紋柄や、ストライプに黒縞を使ったネクタイがトレンド。「黒いネクタイ」と聞くと、弔事のイメージがあるため合わせにくいと感じるかもしれないが、日本人に多いチャコールグレーや黒のスーツには、むしろ似合う色だ。

「黒ベースのネクタイは、白シャツで着るのが基本です。色の濃いネイビースーツにも使えますし、ミディアム~ライトグレーのスーツならモノトーンのコーディネートでモダンにみえるでしょう。無地の黒タイもストイックな印象でスタイリッシュですが、弔事用のネクタイに見えないよう織り地の選び方に気を使ってほしいですね。ニットタイやウール地、ツイル系など光沢を抑えたものならお葬式に行くようには見えず、モダンなセンスを演出できます」

text:zeroyon lab.
photograph:Hiroyuki Matsuzaki