ナポリのスーツによく見られる真っ青な目の覚めるようなネイビーブルーは、地中海の色に例えられる。イタリア生地の王道色で、サルトも生地屋も、この発色には絶大なるこだわりをもっている。探そうとしても、なかなか出会えるものではない。ビジネスブルーとして見れば、知的で若々しい好青年の色。多くの日本のネイビーはもっとダークで沈んでいるものが多い。
明るいブルーのスーツには、ブルーのストライプシャツとブルーにジャカードのペイズリーネクタイ。色の洪水で目を引くならば多色使いのVゾーンも効果的だが、色数を抑えることでスーツそのものが引き立ってくる。さらに、そこはかとない色気を宿すのは、生地の色とともに着る人の体に無駄なくフィットして、体のフォルムを浮き上がらせるかのような独特のカッティングにある。
サルトリア・ナポレターノとは、ナポリのサルト(仕立て職人)たちが腕を競うスーツの競演。それは特定の技術や製法、スタイルを指すものではなく、ナポリらしさとは何かを表現しようとするさまざまな個性のぶつかり合いだ。しかし、男の美意識を引き立てることがスーツにとって最も大切だと考える点では、同じ価値観を共有しているともいえる。
今泉さんのスティレラティーノも、例にもれず男の美意識をビジネススタイルにほんのりと加えてくれる。ストイック過ぎては人間性に乏しく、陽気過ぎても信頼性に欠ける。知性と行動力が共に備わる、センスある人物であるために、今泉さんのラティーノのスーツのような繊細なブルーの色味にこだわりを持ちたい。
text:Zeroyon Lab.
photograph:Yuko Sugimoto