一目瞭然の格好よさ、お直しスーツBeforeとAfter

結局「安物買いの銭失い」という気もするが、セールで1万5000円で買った元値30万円のオーバーサイズのスーツを、どこまで修正できるか、という本企画。別の見方をすれば、「20年前に買ったサイズの合わない高級スーツを、いま直して着られるか」という視点になる。実際、スーツのサイズアウトは2種類あって、太ってしまって着られない場合と、痩せてしまって着られない場合がある。今回は大きいサイズを「詰める」直しだが、逆に小さいサイズを「出す」直しも、縫製部の生地の余裕によるが、ある程度修正することができる。そういったお直し全般のお悩みに「サルト」は応えてくれる。

松本のスーツが仕上がったのは約1カ月後。まずはBeforeとAfterの写真を見比べていただきたい。シャツ、ネクタイ、靴はともに同じものを着用している。

Before(左)とAfter(右)

袖裾のバランスが向上したのは当然として、肩幅を詰めてパッドを薄手のものに変更していることで、肩周りがコンパクトに仕上がっていることがわかる。そのうえピークドラペルの剣先位置が上がったことと、湾曲していたラペルの縁を直線に削っているのでVゾーンもシャープに見せ、ジャケット自体がコンパクトにフィットしていることは明らか。これが正しいフィッティングであって、Beforeの袖と裾を安易に詰めるだけではこのようには仕上がらない。

ポケットのフラップがないことに気付かれてた方もいるだろう。このジャケットは、そもそも50サイズゆえ各部のサイズスペックも微妙に大きい。フラップ幅も、長めの着丈とバランスを取るため5cm幅に設定されていた。ノーフラップに修正したのではない。ここを削って4.5cmとすることもできたのだが、今後フラップはポケット内にしまうことで、フォーマル感あるノーフラップジャケットとして着ることにしたのだ。もうひとつの理由として。お直し代金の節約でもある。直すべきところだけ直してくれる。さらにパンツを詳しく見てみよう。

Before(左)とAfter(右)

Beforeのパンツの余剰分はすっかり解消されている。今回はサイドを開いて直しているので、後ろポケットの位置がやや左右に開いているが、ジャケットを着れば見えない箇所ゆえ、ここもあえて手を入れなくてもいいだろうという判断である。ジャケットを着ない夏用のパンツならセンターを詰めてバランスをとったほうがいい。

フロントにはしっかりと深いタック(プリーツ)を入れている。特に着心地に何か関わるわけではないのだが、ジャケットの前ボタンを開けて着ているとき、これが入っていることで、分かる人にはちゃんと分かってもらえるはずだ。

最後にフロントがジップに変更されていることを確認して、松本のスーツはお直し完了。年末年始のパーティシーズンにも間に合った。さて、今回のお直し代は以下のとおりだ。

【上下お直し 合計:12万7800円】

■ジャケット 合計:8万5000円
肩から袖丈、肩幅、身幅、 肩線から着丈までの詰め :4万6000円
肩パッド変更:3000円
肩仕様をナチュラルショルダーに変更:1万円
フロントカットをカッタウェイに変更:6000円
ラペル幅調整:9500円
袖幅詰め:8000円
ボタン交換:2500円

■パンツ 合計:4万2800円
股下修正(丈詰め):2800円
ウエスト、ヒップ詰め、詰め分でワンタックへ修正:2万5000円
渡り巾、ひざ巾、裾巾修正:8000円
ボタンフライをジップフライへ変更:7000円

今回、サイズ感やシルエット以外のイレギュラーなお直しも多かったため、こちらの金額となった。 サイズ感のみであれば、ジャケットは袖丈/肩幅/身幅/着丈の調整で約3万5000円~、パンツは、股下/ウエスト/わたり幅(もも幅)/ひざ幅/裾幅の調整で約1万4000円~対応可能だ。
※価格はすべて税別

1万5000円で購入したスーツに、税込みで約10倍の費用を掛けてお直しするのは愚の骨頂と笑うかもしれないが、「サルト銀座店」には某ファストファッションブランドの服を持ち込んでお直しする人も相当数いらっしゃるという。それとほぼ同じ割合でいるのが、高級スーツブランドや一流テーラーで仕立てたのだけれど、シルエットがモダンじゃなくてイマイチ納得いかない場合だ。どちらにも言えることだが、「自分の身体にぴったりと合ったスーツを見つけるのはとても難しい」ということだ。どんなに高級ブランドでも、その人の身体にあったスーツを置いているとは限らないし、いかなる一流テーラーも、一発でクライアントにジャストフィットするスーツを仕立てるのは難しい。テーラーでは3着作って、ようやく納得いくスーツが仕上がると言われるほどだ。

「サルト銀座店」は、そのあたりの機微に長ける。アパレルメーカー、テーラー、海外のサプライヤーとも密な関係があり、かつ日本人の体型も熟知している。スタイルのアップデートも頻繁なので、流行にも強い。銀座という激戦区で「スーツのお直し」で店を構えられる理由だ。海外のテーラーを招いてのトランクショーや、オリジナルのスーツ、靴のオーダーも用意されているうえ、女性用のお直し店も併設されているので、パートナーのお悩みも解消できる。ちなみに女性に紹介すると、食事より楽に誘えるし、しかもめちゃくちゃ喜ばれるのでかなりモテる。個人的にはメンズフロアより、こちらのほうに何度かお世話になっている。松本も、ぜひ次回。

池田 保行/Yasuyuki Ikeda
大学卒業後、出版社勤務を経てフリー。2004年にファッションエディター&ライター ユニットZEROYON 04(ゼロヨン)を主催。ファッション誌を中心にフリーマガジン、WEB、広告、カタログなどで幅広く活動している。

問い合わせ情報

問い合わせ情報

サルト銀座店
TEL:03‐3567‐0016


interview & text:Yasuyuki Ikeda
photograph:Hiroyuki Matsuzaki