ワインの裏にある物語が知的好奇心をくすぐる

――世界のビジネスエリートは熱心にワインを学んでいるそうですね。そればかりかケンブリッジ大学とオックスフォード大学では60年以上にわたってブラインドテイスティング大会が開かれたりするなど、エリート予備軍たちもワインの勉強に勤しんでいるとか。なぜそれほどまでにワインを学ぶのでしょうか。

【渡辺】欧米では、仕事ができるだけではエリートとみなされません。教養がなくてはいけないし、ユーモアのセンスを備え、体を鍛え、チャリティーに参加するなど、あらゆる面で社会人トップの素養を身に付けてこそエリートなのです。

ワインもその一つで、単なるお酒(アルコール)ではなく、歴史や文学、文化、芸術などといった教養のカテゴリーに入っています。エリートの世界では、ワインは相手の文化水準を値踏みするツールになるんです。ワインは香りや味わいを楽しむだけではなく、歴史的な人物や、国と国との関係性など、ワインの背景にある物語が面白いのです。

例えば、古今東西随一のワインコレクターは第3代アメリカ大統領のトーマス・ジェファーソンと言われています。フランスの銘醸地ボルドーから樽でアメリカまでワインを運んだほどで、ワインに費やしたお金は目も眩むほどの額になるでしょう。

ワインで国際関係の裏を読み取ることもできますよ。アメリカが中国の国家首席を招いた時、胡錦涛さんの晩餐会には350ドルのワインを、習近平さんの時は15ドルのワインを出したと言われています。これだけでもアメリカの歓迎具合が手に取るように分かりますよね。

――やはりビジネスエリートの間では、ワインを知るか知らないかでは見られ方が違いそうですね。

【渡辺】欧米を中心に世界のエリートでワインを嫌いな人はいませんし、ワインの話題が出ると会話が結構弾むものです。とりわけ高級ワインはエリートを惹きつける力があります。高級ワインの名前が出た時に、「それ、飲んでみたい」「持ってくるよ」となれば仲間意識が強くなり、逆に「そのワインは知らない」と口にしてしまうとそのグループから外れてしまうリスクがあります。

今では、日本の多くのビジネスパーソンにとってもワインの知識は必要になっていると思います。これだけビジネスが国際化し、同僚に外国人がいることも珍しくない時代です。ワインの話ができないと相手と親密な関係を築けないかもしれませんね。

最高級ワインが価格と味の基準を作る

――少なくともエグゼクティブを目指すならワインは必須科目ですね。まだまだ、初心者の私たちがワインを学ぶ時には、何から始めればいいでしょうか。

【渡辺】手始めにオークションのカタログを見てオークションで取引される最高級のワインの名前とヴィンテージ、その価格を覚えていただきたいですね。同じワインでもヴィンテージによって全く価値も価格も異なります。できればそれらのワインを飲んでヴィンテージによる違いや価格感を養ってもらいたいですね。ボルドーならトップの5大シャトーの「シャトー・ラフィット・ロートシルト」「シャトー・マルゴー」「シャトー・ラトゥール」「シャトー・オー・ブリオン」「シャトー・ムートン・ロートシルト」です。

高級ワインはブドウ品種の味わいがストレートに出ます。「ラフィット」や「ラトゥール」のようにカベルネソーヴィニヨンという品種が主体のワインなら、カベルネの味の特徴を最も正確に表現しているのです。最高ランクのワインを飲めば世界のエリートが好むワインの価格帯と味わいを知ることができます。また、5大シャトーを「飲んだ」「今度飲む」などと話せば周りも話に乗ってくるでしょう。

5大シャトーで知られるシャトー・マルゴー1990©Zachys Wine Auction,inc
シャトー・ラフィット・ロートシルト1996©Zachys Wine Auction,inc

――フランスのもう一つの銘醸地である、ブルゴーニュではどうでしょうか。

【渡辺】最高価格帯で取引される「ロマネ・コンティ」とまでは言いませんけど、ブルゴーニュを代表する特級「シャンベルタン」や白ワインの最高峰「モンラッシェ」を選ぶといいと思います。良い畑のものやビンテージを選ぶのも大切です。その後は自分の興味のあるワインを飲めばいいでしょう。フランス・ローヌの飲みごたえのあるワインや、イタリアを代表するピエモンテ州の「バローロ」や「バルバレスコ」などのワインもぜひ試してもらいたいですね。いろいろと試すうちに思わぬワインと出合うこともあるでしょう。