レクサスを代表する、一つの顔
「LEXUS(レクサス)ES」はレクサス・ブランドにあっては、LSおよびGSの下に位置づけられる、いわゆるミッドサイズ・セダンだ。北米では1989年の「レクサス」ブランド誕生いらい、モデルチェンジを繰り返し現在にいたっている、レクサスの一つの“顔”である。
11月に、日本で販売される「ES300h」に試乗した。いま世の趨勢はSUVなんて言われているけれど、セダンもいいんじゃないの、と思っている私にとって、溜飲が下がるような出来のよさなのだ。
ES300hは全長4975ミリのボディ(ミッドサイズではなくフルサイズといったほうがよさそう)に、2.5リッター4気筒エンジンを使ったハイブリッドシステムを搭載している。
日本では「ES300h version L」と、スポーティなサスペンションシステムやちょっとアグレッシブな外観の「ES300h F SPORT」の二本立てで展開される。
私がとくに好きなのは「version L」だ。とてもよい乗り味がある。とりわけ日常生活で使う場面では、ハンドリングのよさ、乗り心地の快適性、加速性などが上手にバランスされているのだ。
それにはメカニズムの裏付けもちゃんとある。
操縦性の面では、前後サスペンションに取り付けられたパフォーマンスダンパーが注目だ。走行中のボディのねじれや微振動を吸収するために開発されたものである。ステアリングシステムもラック平行式を採用して、ステアリングホイールの操作に対する反応の速さを実現している。
さらに「スウィングバルブショックアブソーバー」の特筆すべき技術だ。乗り心地のよさを求めて新開発されたもので、中に入れたオイルの流量を小さな部品で調整する。そこでとりわけ低速や高速を流しているときなど、ゆっくりとした上下動でのときに、フラットな車体の動きを生んでいる。
「乗って最初の交差点を曲がるときに違いがわかると思います」。開発を担当したレクサスのエンジニアはそう語ってくれたが、自動車を乗り継いできたひとならとくにスムーズな動きに感銘を受けるのではないだろうか。これは「version L」のみの採用だ。
これらを挙げたのは、どれも、いってみれば従来の技術を磨きあげたものだからである。昨今は電子制御技術をサスペンションやドライブトレインに積極的に取り込む傾向が強い。
それを否定するつもりはないけれど、レクサスESはなんでも電子に頼るのでなく、従来の技術を洗練させて結果を出しているところを大きく評価したい。
とくに「スウィングバルブショックアブソーバー」など、言ってみれば、1枚のごく薄い小さな円形部品による技術だ。それだけでクルマの動きがこうも変わるのかと、驚くほどである。
「version L」のノイズリダクションホイール(先代レクサスLSから採用されている技術)にも触れておきたい。中空ホイールによって、路面とタイヤが生む大きなノイズの遮断に成功している。
いっぽうでハイブリッドシステムは、電子技術を有効に使う。それで好燃費を実現している。従来の「JC08」モードよりリアルライフでの数値に近い「WLTC」モードをみても、郊外モードでリッターあたり22.7キロ、総合で20.6キロと発表されているのだ。
もうひとつ、「version L」には量産車で世界初と謳われる「デジタルアウターミラー」が用意される。ドアに取り付けるバックミラーのかわりにカメラを使うシステムだ。ダッシュボードの両端に左右の後方画像を表示するディスプレイが設置される。
レクサスでは、メリットとして写しだされる後方画像が従来の鏡より大幅に広いことをあげている。要するに死角が少ないのだ。左折時には巻き込みや路肩への脱輪を防ぐために自動で前輪の周辺が拡大されたりもする。
実際に使うと、なるほどおもしろい。モニターで後方を確認するのはすぐ慣れる。ドアミラーより内側についているので、視線の移動が少ないのもメリットだ。ただ画像の解像度や処理速度がやや不足ぎみと感じられ、後方の車両の車種を特定するのがむずかしかったりした。現時点ではメリットとデメリットがあるということだ。
私は今回、山口の秋吉台のワインディングロードを走り、そのあと一般道と高速道路を使い福岡まで足を延ばした。上記の特徴ゆえにドライブは快適で、スポーツカーが気分を高揚させる乗り物だとしたら、レクサスESはストレスを鎮めてくれると感じた。
結論としては、レクサスはがんばっていると、なんだか誇らしい気分にしてくれるクルマだった。価格は「version L」が698万円(税込)で、スポーティな「F SPORT」が629万円(税込)だ。
小川 フミオ/Fumio Ogawa
慶應義塾大学文学部卒。複数の自動車誌やグルメ誌の編集長を歴任。そのあとフリーランスとして、クルマ、グルメ、デザイン、ホテルなどライフスタイル全般を手がける。寄稿媒体は週刊誌や月刊誌などの雑誌と新聞社やライフスタイル誌のウェブサイト中心。