4. 心地よい接客

スタッフはみな、朗らかで話しやすい雰囲気だった。接待の席ではスタッフも席次などを把握しながらも、時に臨機応変に行動することが求められる

焼肉接待におけるスタッフの力量が求められるのは肉の焼き方だけではない。「接客」の部分も接待では肝心だ。適切なタイミングで、場の空気を乱さない話や振る舞いを求められる。

大手チェーンの焼肉店ではスタッフと肉の話をしたり、席次まで意識した料理提供は期待できない。しかも、料理が運ばれてくるときにはスタッフという他者が接待の空間に突然入ってくるので会話は一度途切れてしまう。タイミングによってはそれが接待にとってマイナスに影響してしまうこともありうる。

一方、「蕃 YORONIKU」では、「スタッフさんも全員が肉好き」と小池さんが評するように、スタッフが付け焼刃の「知識」ではなく、たくさん焼いて食べた「経験」を基に接客する。さらに「ここの店員さんは肉に関するどんな質問が来ても自然に受け答えができるんです」と小池さん。したがって、適切なタイミングを見計らって、接待の輪に入り込み、肉を焼いている最中も肉の知識で会話を継続させることができるのだ。肉の提供の前と後で会話の断絶がないので、スムーズに元の話に戻ったり、新しい話題に移ることも容易だ。

5. 場を盛り上げる料理

そして最後の要素はサプライズだ。相手の記憶に残る接待となるような独創的な料理が登場すれば自然と会話も弾む。肉バカと呼ばれる小池さんをして「いつ来てもサプライズがある」という同店は試行錯誤を重ねた新作料理が数多い。得意先を繰り返し連れて行っても常に新しいサプライズに出会える。

この日のサプライズは「ザブトンのすき焼き トリュフがけ」だ。割り下にさっとくぐらせた薄切りのザブトンに卵と白トリュフを加え、よく混ぜてから食す贅沢な逸品。白トリュフの高貴な香りと上質な脂を纏ったザブトンの旨味が重層的に溶け合い、感動と口福の時間を運んでくれる。

しかし、これだけで終わらない。残った卵と白トリュフの器に白米を投入するのだ。先ほどのザブトンの旨味が染み出た卵が、白米と白トリュフをつなぎ、かつてないほどに贅沢な卵かけご飯が完成する。「この料理では肉が前菜でご飯がメインなんです」と桑原さんが話すとおり、前述のザブトンの感動に匹敵するほどのおいしさ。白米の一番おいしい食べ方はもう発見されていたのだ!

ここまで5つの条件に照らして、焼肉接待での店選びのポイントを紹介してきた。「自分が楽しむ場所」と認識されている焼肉にも「相手を喜ばせる」要素が多くあるとお分かりいただけただろう。相手との距離を一歩も二歩も進めたいとき、焼肉はあなたに救いの手を差し伸べてくれるはずだ。焼肉は驚きと感動を共有することでコミュニケーションを円滑に進めることのできる「ビジネスツール」なのだ。

小池克臣さんが教える! 焼肉接待を盛り上げる豆知識


いざ焼肉接待をするとなったときに、ちょっと役立つ豆知識をご紹介。

1. 雌牛を出す店を狙え!

焼肉接待なら雌牛! と上述したが、これには理由がある。一般的に雌牛は雄牛に比べて香りがよく肉質が柔らかいため、上質とされている。「ここのお肉は雌牛を使っているんですよ」と話を振れば、話題にもなる上に、提供される肉の上質さを相手に知らせることもできる。会話に困ったときのために、覚えておいて損はない知識だ。くれぐれも雄牛を提供している店で使わないように。


2. 良い焼肉店はタンとハラミが旨い

和牛は精肉と内臓でそれぞれ別々の流通になっている。精肉はセリを通して、高いお金を払う業者が手に入れることができる。一方、内臓はセリではなく、ほぼ一律の金額で業者に販売されるので、業者が飲食店に販売する際にも精肉のような値段の差がほとんどない。したがって、取り扱う業者との信頼関係が強い飲食店ほど質の高いタンとハラミを含めた内臓類を仕入れることが出来る。真摯に肉に向き合い、肉の味を最大限に引き出してくれるというお墨付きを得ているのだ。ちなみにタンもハラミも内臓系の肉であることも豆知識として使えるだろう。

小池克臣/Katsuomi Koike

『No Meat,No Life.』主宰
魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。焼肉を中心にステーキやすき焼きなど牛肉料理全般を愛し、和牛そのものの生産過程、加工、熟成まで踏み込んだ研究を続ける肉の求道者。ブログ“No Meat No Life.”では年間200食にも及ぶ肉食についての詳細な記録を公開中。
著書に『肉バカ。No Meat,No Life.を実践する男が語る和牛の至福』がある。

問い合わせ情報

問い合わせ情報

蕃 YORONIKU(えびす よろにく)
営業時間:17時~24時(L.O.23時)
席数:58席
東京都渋谷区恵比寿1‐11‐5 GEMS恵比寿 8F
TEL:03‐3440‐4629

▼こちらもおススメ! 接待に使える焼肉店

「肉バカ」こと小池克臣さんに今回紹介した「蕃 YORONIKU」以外にも接待向きの焼肉店を紹介してもらった。上述の5条件を満たした上で、今、おススメできる良店がこちら。


USHIGORO S.
すべてのテーブルが個室。それぞれの個室ごとに専属の「焼き手」が付くというラグジュアリーでスタイリッシュなお店。
営業時間:17時~24時
席数:完全個室5部屋(最大12名様まで)
住所:東京都港区西麻布2‐24‐14 Barbizon73 B1F


炭火焼肉なかはら
肉質の良さとカッティングの技術に定評がある人気の炭火焼肉店。個室では、スタッフの焼きサービスもあり。
営業時間:平日:一部 18時~、二部 20時30分~(土日祝:一部 17時~、二部 19時30分~)
席数:44席
住所:東京都千代田区六番町4‐3 GEMS市ヶ谷9F

text:PRESIDENT STYLE

photograph:Hisashi Okamoto