ついに姿を現わしたアウディの電気自動車
2019年は電気自動車(EV)が増えるとも言われている。なにしろAudi(アウディ)が本腰を入れはじめたからだ。皮切りは2018年暮れにアラブ首長国連邦のアブダビで開催されたピュアEV「e‐tron(イートロン)」のジャーナリスト向け試乗会である。
出る出ると言われていて、ついに出た感の強いアウディe‐tron。全長4.9メートルのわりと大きなサイズを持つクロスオーバーとして姿を現した。そこに2基のモーターと、4輪駆動システムと、95キロワット時という大容量のバッテリーを搭載する。
出力はブースト時といって最大で300キロワットに達し、トルクも664Nmとかなり太い。トルクはアウディ車を例にとると4リッターV8エンジンのA8 60の660Nmを上回るのだ。
試乗のスタートは、アブダビ空港そばの人工都市といえるマスダールシティだった。アウディでは「わざわざそこを選んだ」と言う。理由は、ここが中東におけるサステナビリティを追究する実験都市だからだ。
「クリーンエナジー」による生活をいかに作りだしていけるか。マスダールシティでは、さまざまな実証実験が行われている。そのうちのひとつがEVであり、今回のe‐rtonが備える急速充電システムなどに対応する設備も整っているのだ。
e‐tronはひとことで言って、EVのよさをほとんどすべて備えたモデルだ。走りの力強さ、静粛性、運転支援技術を含めた多くの電子制御システム、それに加えて電気的な4輪駆動システム「e‐quattro(イークワトロ)」を搭載し、フル充電での航続距離は400キロと発表されている。
たしかに実際の走りは、車体のサイズをまったく意識させないダッシュ力で、しかもそれがほぼ無音だということに、EV体験がいくつかある私ですら、改めて感心させられた。
e‐tronはエネルギー回生のシステムをいろいろ搭載しているのも特徴だ。ひとつはブレーキングの際にバッテリー充電を行うもので、これはプリウスなどに乗っている人にはおなじみだろう。ただしe‐tronの場合、時速100キロからブレーキを踏んだ際、そのとき70パーセントのエネルギー回生が行われるという高効率のシステムであるのが特筆に値する。
もうひとつ、ステアリングホイールのコラムのレバー操作でアクセルペダルにのせた足の力を弱めたときの回生の効き具合を調節できるのもユニークだ。バッテリーへの充電が行われる際、いわゆるエンジンブレーキのように、ぐっと強く制動がかかる。これをうまく使うと坂道の下りなどで速度調節が楽になるのだ。
操舵への車体の反応はよく、いっぽうで乗り心地は快適。「運転を楽しめると同時に、長距離を疲労なく走ることを目指しました」というアウディの技術者の言葉どおりの出来である。
それには高速での直進安定性とともに悪路での走破性を高める、アウディの自家薬籠中の技術であるクワトロシステムの電気版「e‐quattro」も貢献している。低負荷時はほぼ後輪のみを駆動し、路面状況や走り方に応じて瞬時に前輪にもトルクが配分されるのだ。
急速充電システムも進んでいて、直流による150キロワットのシステムを使えば、約30分で充電可能だそうだ。「それによって使用領域を大きく広げます」とアウディはいう。
いま欧州ではドイツの自動車メーカーを中心に「アイオニティ」という急速充電のネットワーク化(120キロごとにステーションを配備)が進められているので、e‐tronはけっして時期尚早の技術ではないとアウディの開発担当者は話してくれた。
アウディではさらに「e‐tronスポーツバック」という4ドアクーペ的なモデルを2019年の発売に向けて準備中だ。さらにもうひとつ、EV用のシャシーをポルシェと共同開発中だという。電気で走るスポーツカーのプロジェクトのためだ。
2019年は自動車界に電気自動車が増え、それがひとつの大きなトレンドになっていく感がある。そこにあってアウディは、台風の眼になりそうだ。
小川 フミオ/Fumio Ogawa
慶應義塾大学文学部卒。複数の自動車誌やグルメ誌の編集長を歴任。そのあとフリーランスとして、クルマ、グルメ、デザイン、ホテルなどライフスタイル全般を手がける。寄稿媒体は週刊誌や月刊誌などの雑誌と新聞社やライフスタイル誌のウェブサイト中心。