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近年、ビジネスマンの教養としてアートに注目が集まっている。感性を磨くことでビジネスの閉塞感を打開できるということらしい。確かに、ビジネスを取り巻く環境は複雑化が進み、変化のスピードも速いため、理性だけでは対処しきれない場面も増えている。もしビジネスに閉塞感を感じているのなら、感性で打開を図るのも一つの手だ。今回紹介する作品展は、その感性を磨く上で絶好の機会となるだろう。
(STYLE編集部)
エスパス ルイ・ヴィトン東京では、フランスの20世紀の作品に特化した芸術機関であるフォンダシオン ルイ・ヴィトン所蔵のコレクションから、今は亡きアーティスト、ヘスス・ラファエル・ソトによるインスタレーション《Pénétrable BBL Bleu》を公開している。本プログラムは過去3年にわたり、東京、ヴェネツィア、ミュンヘン、そして北京のエスパス ルイ・ヴィトンにおいて展示してきたもので、国際的なプロジェクトを通じてソトの活動を広く紹介するという趣旨で行われているものだ。
今回展示されている《Pénétrable BBL Bleu》(1999年、ed.Avila 2007年)は、1999年に制作された、ソトの集大成といわれる作品。ここで使用されているのは、医療用にも使用される青のPVC(ポリ塩化ビニル)と、それを吊るすための金属のみ。鑑賞者が実際にブルーの空間に入り、空気感を味わう「その瞬間」に作品は完成する。
作品の中にいる人の数、動き、時間。それぞれのシチュエーションで作品の世界は様変わりする。1秒として同じ世界は生まれないため、見る人々の「生きる瞬間」を切り取ることができる。心を無にしてそこから何を思うのか。日常の締め付けすぎたネジを緩めることで、新たなるイマジネーションが広がる感覚が心地よい。
製作者のソトは、1923年生まれ。大規模な視覚的インスタレーションでよく知られた、ベネズエラ出身のアーティストだ。戦後のアバンギャルドモダニズムに傾倒し、抽象芸術界の一員となり活動。1960年代後半には、知覚を目覚めさせる作品群により、キネティック・アートと呼ばれる動きのある芸術作品を制作するアーティストとして知られるようになった。ソトの初期のキネティック・アート作品である《Vibracións》(振動)シリーズは1960年代を通じて続き、鉄線を使用したり、棒を吊り下げるなどして空間に振動や音を生み出したもの。今回の展示《Pénétrable》(浸透可能なるもの)シリーズは、彼のライフワークとなった代表作品である。
鑑賞者に空間は空虚な場所ではないことを思い出させ、実際に素材に触れる体験によって目に見えないものを感じとらせてくれる《Pénétrable BBL Bleu》。展示空間に広がる青の世界を通り抜けながら、五感を研ぎ澄ませてみてはいかがだろうか。
問い合わせ情報
エスパス ルイ・ヴィトン東京
▼展覧会概要
ヘスス・ラファエル・ソト《Pénétrable BBL Bleu》
会期:2018年12月7日(金)~2019年5月12日(日)
場所:エスパス ルイ・ヴィトン東京
住所:東京都渋谷区神宮前5‐7‐5 ルイ・ヴィトン 表参道店 7階
開館時間:12時~20時
休館日:ルイ・ヴィトン表参道店に準ずる
※入場無料
text:moca kurio