英国は戦前からスポーツカーを愛してきた。優秀なレーシングドライバーは多いし、F1マシンの製造でもいまだにトップクラスだ。マクラーレン・オートモーティブは、F1を手がけるマクラーレン・レーシングと同じグループの傘下で、スーパー・スポーツカーを手がけてきた。
最新モデルは、2019年にはやばやと発表された2台、「マクラーレン600LTスパイダー」と「マクラーレン720Sスパイダー」である。ともにオープントップの2座スポーツカーだ。
600LTスパイダーは600馬力の3.8リッターV型8気筒エンジンを持ち、同社のカテゴリーでは「スポーツシリーズ」に位置する。ベースになっているのは、2018年夏に登場した新型、600LTだ。720Sスパイダーは、720馬力の4リッターV型8気筒エンジン搭載で、スポーツシリーズの上の「スーパーシリーズ」に属している。2車ともにF1の技術を応用したカーボンファイバーのモノコックシャシーを持ち、エンジンを駆動輪である後輪の前に載せている点では同じコンセプトを持つといえる。
いまは同じ建物内にいるF1の技術者も開発に参画しているともいわれるマクラーレン・オートモーティブである。手がけるスポーツカーは、贅肉がまったくなく筋肉質なスタイリングから想像できるとおり、カミソリのような切れ味を持っている。
私は米アリゾナで720Sスパイダーに乗らないかと招かれて、言うまでもなく試乗を心待ちしていたのだが、なんと、実際に出かけてみたら、600LTスパイダーも用意されていた。モデルのジジ・ハディドの家に行ったら、その妹のベラ・ハディドもいた、みたいなものだろうか 笑。
720Sスパイダーは静止から時速100キロまで2.9秒で加速すると発表されているだけあって、ダッシュ力がすさまじい。エンジンはまさに絹のような滑らかさで高回転まで到達し、加速時のGでドライバーのからだがシートに押しつけられるほどだ。
シャシーはAピラーまで一体成型のカーボンモノコックであり、ボディも多くの部分でこの高剛性で軽量(ただし高価)な素材を使っている。「プロアクティブシャシーコントロールII」なるシャシーには電子制御の油圧サスペンションが組み合わされているのだ。ステアリングホイールを切ったときの車体の動きはレーシングカーなみのクイックさである。
シャシーはAピラーまで一体成型のカーボンモノコックであり、ボディも多くの部分でこの高剛性で軽量(ただし高価)な素材を使っている。「プロアクティブシャシーコントロールII」なるシャシーには電子制御の油圧サスペンションが組み合わされているのだ。ステアリングホイールを切ったときの車体の動きはレーシングカーなみのクイックさである。
そもそも720Sはサーキットに軸足を置いたスポーツカーである。720Sスパイダーは電動格納式ハードトップによる爽快感も併せ持つとはいえ、オシャレをしたアスリートみたいもので、本質的には走りを徹底的に楽しませてくれるのだ。
600LTスパイダーは、従来の570Sスパイダーの上に位置づけられている。後者はグランドツアラー的な快適さも持っていたが、600LTは足まわりが硬くなり、よりサーキット志向が強い。
実際にアリゾナのサーキットで走らせたときは、素早いシフトワークと、フレキシブルな足まわり、そしてミシリともいわないボディの剛性に、改めて感心させられた。コックピット背後から突きだしたトップエグゾーストから甲高い排気音を響かせて走るのは快感いがいの何ものでもない。
馬力と、それに軽量化。この2つがスポーツカーにとって重要なファクターだとマクラーレン・オートモーティブのマイク・フルーウィットCEOは述べている。付け加えるなら、個性的なスタイリングも大きな魅力だ。
これだけすばらしいスポーツカーを作るマクラーレン・オートモーティブだが、「トラック25」なる計画によって2025年までにすべてのモデルのパワートレインをハイブリッド化することを発表している。
矢のように走り、曲がり、そして強力なブレーキで止まる、というパフォーマンスを体験していると、このパワフルなガソリンエンジンを失ってしまうのは惜しい気もする。が、かつて「P1」(2013年)という737馬力のハイブリッドスーパースポーツを作った経験もあるマクラーレン・オートモーティブだけに、まったく未知の体験を用意してくれるかもしれない。
小川 フミオ/Fumio Ogawa
慶應義塾大学文学部卒。複数の自動車誌やグルメ誌の編集長を歴任。そのあとフリーランスとして、クルマ、グルメ、デザイン、ホテルなどライフスタイル全般を手がける。寄稿媒体は週刊誌や月刊誌などの雑誌と新聞社やライフスタイル誌のウェブサイト中心。