やっぱり市街地で乗るクルマは、コンパクトなサイズがいい。そう考えているひとに“朗報”といえるクルマが登場した。フォルクスワーゲン（VW）の「T‐CROSS（ティークロス）」である。スタイルはSUVだ。
先だってスペイン・マヨルカ島での試乗で、このクルマの出来のよさに感心してしまった。ベースになっているのはVWポロである。ポロより全長が5センチほど短く、全高では13センチ以上高い。
デザインも明らかに異なる。VW内ではゴルフやポロの系列でない。上は「トゥアレグ」から、下はアウディQ2とコンポーネンツを共用する「VW T‐ROC」までの、VWのクロスオーバーファミリーの一員なのだ。
全長は4108ミリと画像で見るよりコンパクトである。日本車でいえばホンダ・ベゼルやマツダCX‐3より、輸入車ならプジョー2008やジープレネゲードよりコンパクトなのだ。
エンジンは1リッター3気筒ガソリンと、1.5リッター4気筒ガソリン、それに4気筒ディーゼルが用意されている。前輪駆動のみ。日本に導入予定という1リッター85kW（115馬力）モデルには7段DSG（ツインクラッチ）変速機が搭載される。
マヨルカ島での試乗で驚いたのは、期待以上の楽しさだった。ステアリングホイールは適度な重さとともに中立ふきんでしっかり感がある。左右どちらかに切ったときの車体の動きは速く、傾きも少ない。
コンパクトな車体ながら後席の空間は広いし、リアシートは前後に14センチもスライドできるので、4人乗車の状態で455リッターの容量が確保できる。これで全長が4メートルそこそこ？ と驚くほどだ。
機能性と多様性をセリングポイントにしているだけあって、前席重視のクルマではない。後席は着座位置が高くなっているので、前がよく見える。閉じ込められた感覚が希薄なのは嬉しい。
マルベイヤはドイツ人をはじめ欧州人に人気あるリゾートなので、夏のハイシーズンに向けて道路整備のための工事がいたるところで行われていた。ワインディングロードを走り回ってみたかったが移動時間の関係もあって、次回のお楽しみになってしまった。
ドアの開閉音やさまざまな操作類など、クオリティ感が高いのも魅力だ。小さくても作りのいいクルマが欲しいひとには、うってつけの1台だと思った。
小川 フミオ／Fumio Ogawa
慶應義塾大学文学部卒。複数の自動車誌やグルメ誌の編集長を歴任。そのあとフリーランスとして、クルマ、グルメ、デザイン、ホテルなどライフスタイル全般を手がける。寄稿媒体は週刊誌や月刊誌などの雑誌と新聞社やライフスタイル誌のウェブサイト中心。
