高級でもコンパクト、というのが日本的なクルマ選びのスタンダードになるかもしれない。ランドローバーが手がける「レンジローバー・イヴォーク」は全長が4371ミリと、たとえばスバル・フォレスターより255ミリも短い。それでいて、ぜいたくな内装と高い機能を持つ。希有なSUVとして紹介したい。

そもそもイヴォークは初代が2011年に発表された。全体をウェッジ(くさび)シェイプにして、前後長の短いルーフを組み合わせ、クーペ的なともいえる、まことにスタイリッシュなデザインが最大の特徴だった。

アテネ近郊はすぐ山岳地帯になり青い海を見下ろして走れる

2019年3月にギリシア・アテネで試乗した新型イヴォークは、評価の高かったスタイリングコンセプトを踏襲している。それでいて、さきに発表されたレンジローバー・ヴェラールと共通の、全体に丸みを帯びつつもぱんっと張った上質な磁器のような面によって、目を惹くデザインなのだ。

新型になっても全長を延ばさないでほしい、というオーナーの声が多かったそうで、新型は20ミリ程度しか全長が伸びていない。ほとんど誤差の範囲だ。ルーフは後方に行くにしたがって下がり、あえてキャビンを小さく見せる手法は継続して採用されているが、室内スペースはうんと広がり、後席も居心地がよい。

キャビンはあえて小さく見えるようにデザインされているところがスタイリッシュだ

新しいのは新世代の横置きプラットフォームで、効率のよいパッケージングを可能にするメリットを持つ。今後いくつかのモデルで使われる予定だ。新型イヴォークではこれに接着材を多く使うことで剛性を上げている。接着材をレザー溶接と組み合わせることで生まれるメリットとして、ボディは適度にしなり、ガチガチの硬さにはならない点をあげることが出来るのだ。

結果、直進性のよさと、車線変更時のハンドリングはみちがえるようによくなった。同時に静粛性もかなり高い。先代もけっして悪いクルマでなかったが、新型は質感があがり、おとなっぽさが増した。ひとことでいうと、成長したというかんじだ。

インテリアの仕様は豊富で、写真はレザーシートに、タッチプロデュオ(インフォテイメント)装着車(左)/荷室も広く実用性は充分(右)

室内はデザインオリエンテッドというか、クリーンな造型で、かつパネルやパッドやステアリングホイールを巻く素材など、材質に凝っている。これはレンジローバーの上級モデルに通じる感覚だ。加えてシート表皮も、レザーに加え、ウール素材や、リネンのようなファブリックが用意されている。

室内は長い時間を過ごす場所だから、居心地のよさを求めてイヴォークを買うひとがいても不思議でない。かつ上級モデルには「タッチプロデュオ」なる液晶モニターコントロールが備わり、アップルカープレイなど、さまざまなインフォテイメントを体験できる。

スタイリングのイメージからすると完全都市型のイヴォークだが、じつはオフロード性能もかなりレベルが高いことが、ギリシアの試乗でわかった。ランドローバーでは、ルート上にさまざまな専用コースを用意してくれていたのだ。

オプションのグラスルーフ仕様

岩場の上り下りもあれば渡河もあった。ガードレールのない砂利だらけのマウンテンロードをえんえん走るコースも途中で走った。滑りやすい路面でのトルクを絞るロートラクションコントロール、急な下り坂でブレーキペダルを離しても急加速を防ぐグラディエントリリースコントロールなど、ほとんどフールプルーフの状態でラフロードを走破してしまうのだ。

エンジンは2リッター4気筒のガソリンとディーゼルである。日本では200馬力の「P200」(461万円~)と、249馬力の「P250」(602万円~)と、それに300馬力のマイルドハイブリッド「P300 MHEV」(656万円~)というガソリンエンジンと、180馬力のディーゼル「D180」(523万円~)がラインナップされる。(※価格は全て税別表記)

装備レベルはエンジンによってさまざまで、大きくいうと「EVOQUE」とスポーティな仕様の「R‐DYNAMIC」がある。オプションも豊富なので迷う楽しみがある。個人的には、パワフルな「P300 MHEV」か、いっそ低回転域のトルク感が気持いい「D180」だろうか。迷う楽しみを与えてくれるモデルだ。

小川 フミオ/Fumio Ogawa
慶應義塾大学文学部卒。複数の自動車誌やグルメ誌の編集長を歴任。そのあとフリーランスとして、クルマ、グルメ、デザイン、ホテルなどライフスタイル全般を手がける。寄稿媒体は週刊誌や月刊誌などの雑誌と新聞社やライフスタイル誌のウェブサイト中心。

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