レクサス・デザインアワードは、若手デザイナー育成のためにレクサスが創設した賞だ。グランプリの授賞式が2019年4月8日にミラノで行われた。
ミラノ・デザインウィークの初日にもあたり、ここで同時にレクサスはライゾマティクスと組んだインスタレーション(一時的な展示)を行い、併せて大きな話題を呼んだ。
「レクサス・デザインアワード」2019年度は65カ国から1548にのぼる応募が寄せられたという。そこからファイナリスト(優勝候補作)は6つに絞られた。
評価軸は、3つの単語から成り立っている。社会や個人のニーズを「予見」し、「革新的」なソリューションで、観衆や審査員の心を「魅了」するアイディアであること、とレクサスは設定している。
グランプリは米国のリサ・マークス氏に贈られた。インダストリアルデザイナーでもあるマークス氏の作品は「Algorithmic Lace (アルゴリズミック・レース)」。レース編みのブラジャーだ。「乳房切除手術を受けたひとのためにデザインしたものです」とマークス氏は言う。
デザイン手法はユニークである。クライアントのからだを計測し、装着したときの美しさを考えつつ、同時に快適な下着としての機能が追究されているのだ。
立体的な造型ができる3Dモデリングを採用しつつ、仕上げは欧州で伝統的な手工芸のレース編みとなる。フィット性と肌ざわり、ともに優れたブラジャーになるというのがマークス氏の説明だ。
デザインウィーク初日の夕方、トルトーナ地区にレクサスが設置した会場でグランプリとしてこの「Algorithmic Lace」が発表されると、マークス氏は大きな笑顔を見せた。
「レクサスは本来、このような取り組みをしなくても、十分に成功しているブランドです。それにもかかわらず、デザインがより良い未来を作るため、レクサス・デザインアワードを通じてそのコミットメントを示していることは、素晴らしいと思っています」
マークス氏はトロフィを手にしながら上記のようにコメントした。
レクサス・デザインアワードの審査員の一人であり、レクサス・インターナショナルの澤良宏プレジデントは、2019年はとくに会心の出来と高い自己評価点をつけている。なぜレクサスはデザインに力を入れるのか。ミラノの会場で話を聞いた。
――2019年のレクサス・デザインアワードのファイナリストのクオリティはとりわけ高かったように思いました。
「よりよい未来のために私たちには何が出来るか。デザインはきちんと問題に対するソリューションになっているか。マークスさんをはじめ、ファイナリストのみなさんは広い視野をもって、きちんと考えていたと思います。6つの作品のなかからグランプリを選ぶのは、甲乙つけがたく、本当にたいへんな作業でした」
――2019年1月、ニューヨークでワークショップを開いていますね。
「それがよかったと思っています。ファイナリストと、助言を与えてくれるメンターとの話合いの場になりましたから。そこでプロから、リサーチ面、デザイン面、プロダクション面、マーケティング面でいろいろアドバイスを受けられました。各ファイナリストは自分の立ち位置がわかって、改善すべき点があれば、より良い方向へと舵を切れたのではないでしょうか」
――“デザイン”は広義の概念ですが、レクサスにとってデザインとはなんでしょうか。
「デザインは顧客とテクノロジーを美しくつなぐ手法だと思っています。クルマは乗りこんでから降りるまですべての過程を通して“経験”を提供する乗り物です。クルマはたんに車輪と箱のプロダクトでなく、いかに満足できる経験を提供できるかを考えながら開発すべきものです。私はそれをデザイン・シンキングと呼んでいます」
――2019年度のミラノ・デザインウィークでは、レクサス・デザインアワードに加え、ライゾマティクスをコラボレーションデザイナーに迎えての「LEADING WITH LIGHT」と、レクサス車に採用予定のブレードスキャン方式採用のハイビーム可変ヘッドランプ技術の展示がありました。
「すべての展示がテクノロジーをベースにしながら、無理もなく、きれいにつながったと自負しています。レクサスがカンパニー制になってレクサス・デザインが独立して初のミラノ・デザインウィークで、光により“Human‐Centered(人間中心)”というレクサスの考えを横断的に表現できたのではないでしょうか」
――それに自動車は社会性のものすごく強いプロダクトです。
「クルマは総合的な製品です。使うひとを中心に作るのはもちろんですが、歩行者も大事だし、社会や環境とどう調和していくかも重要な課題です。建築家の方々がやっているのはその作業ではないでしょうか。審美性をはじめ、機能性、周囲へのインパクト、経済効果、エネルギー消費など、総合的にものごとを考えています。私たちもすこし長いスパンでクルマづくりを考えていくつもりです。それは世界観を作る作業でもあり、そこでデザイン・シンキングが大事な役割を果たすと思っています」
――レクサスの現在のポジションはいい線をいっているのでは?
「まだまだいろいろやれると思っています。1989年に米国でデビューして30年しか経っていない若いブランドです。海外の市場で欧米のブランドと伍していくためには、ライバルと違う価値観を打ち出す必要がありますね。時代のニーズを的確に読み取り、たとえば、新しいテクノロジーの採用でもライバルに伍していかなくてはなりません」
小川 フミオ/Fumio Ogawa
慶應義塾大学文学部卒。複数の自動車誌やグルメ誌の編集長を歴任。そのあとフリーランスとして、クルマ、グルメ、デザイン、ホテルなどライフスタイル全般を手がける。寄稿媒体は週刊誌や月刊誌などの雑誌と新聞社やライフスタイル誌のウェブサイト中心。