1坪の極小店で連日予約完売

場所は東京ミッドタウン日比谷のはす向かい。「銀座かずや」は、雑居ビルの1階の奥まった場所でひっそりと暖簾を掲げて営業している。場所のわかりにくさもさることながら、店に行って驚くのは、店舗面積がたった1坪しかない小ぢんまり感だ。

創業は2004年。間借り営業から始まり、今の場所に移転したのは2005年のこと。

「この場所を知人が紹介してくれたときは、『こんな奥まった狭い場所で?』と正直不安になりました。けれども物は考えようですね。あえて大きな看板は出さず、ひっそりと営業を始めました。そのほうが、かえって目立つ存在になるんじゃないかと思ったからです」

店主の古関一哉さんは、この地で店を開いたときのことをそう振り返る。狙いは的中。「やっと探し当てた」と喜んでくれる客も多く、徐々に店の名が知れ渡るようになったという。

あまりに店構えが簡素なので初めて訪れる方は「本当かなあ」と疑念を抱くかもしれないが、この店の名物「かずやの煉 抹茶」は、予約1カ月待ちの大人気商品。食通のファンも多い絶品の生菓子である。

むっちり、もっちり。独特な食感の“煉り菓子”

言葉に表現するのがむずかしい極めて独特の触感。ぜひ食べることで体験してもらいたい

1人前ずつ笹の葉にくるまれた「かずやの煉 抹茶」は、食感がすごい。舌の上を這うようなむっちりもっちりとした口当たりで、まったりとした舌触りのババロアのようでもある。しかも口溶けがよく、口の中から跡形もなく消えてしまう。ほかに類をみない独特の食感だ。

くず粉とわらび粉を主体にしているのだが、くず餅でもなく、わらび餅でもない。いったい何菓子と呼べばいいのだろう。古関さんにたずねると、こんな答えがかえってきた。

「僕が胡麻豆腐をルーツに編み出した、オリジナルの“煉(ね)り菓子”です」

古関さんの前職は日本料理の板前である。ふぐ包丁師の免許を持つ、異色の和菓子職人といっていい。しかし、何ゆえ胡麻豆腐?

「修行時代、先輩が胡麻豆腐をつくる姿に憧れていました。真剣なまなざしで材料をねりあげる様子はとてもかっこよかった。練習しながら材料をねっているうちに、これは和菓子になる! と直観的にひらめいたんです」

人生は一度きり。自分の可能性を試すべく、板前の仕事がおわってからオリジナルの和菓子づくりの研究に日々没頭。2年の歳月をかけて、「胡麻豆腐と、大好きなわらび餅の合いの子のような理想的な食感」に辿りついたのだと語ってくれた。

板前から和菓子職人に転身して16年。毎日繰り返しねり続けていても、「もっともっと、いい食感を出せるはず」とさらなる味の向上を追求しているというから、その職人魂に恐れ入る。

特別な人に、とっておきの手土産を

味のベースとなる抹茶の風味もすばらしい。

「高級茶の産地として名高い福岡県は八女の抹茶を使っています。質の高い茶葉を扱う星野製茶園さんに選り抜いてもらった抹茶は、ふくよかな甘みで香りが奥深く、うちの煉り菓子にぴったりです」

独特な食感を堪能しながら、ほろ苦くて清々しい上等な抹茶の風味を味わえるのだから、贅沢この上ない。

冷たい抹茶味の菓子はこれからの季節にふさわしい味である。とはいえ1カ月も前から予約をしないと手に入らないなんて煩わしい……。そう思う方もいるかもしれないが、その分、手土産にしたら特別感が演出できるというもの。差し上げる相手に、「入手困難な人気の和菓子で、1カ月前から予約をしておいた」とさりげなく伝えるかどうかはさておき、言わずとも「ぜひとも食べていただきたくて」という気持ちは自然と相手に伝わるだろうし、間違いなく感動してもらえる極上品である。ここぞ、というときの手土産としておすすめしたい。

なお、製造から販売まで古関さんがひとりで行っているため、営業中は電話がつながりにくい。店の近くまで行く機会があれば店頭で予約をするのが確実だろう。

【店の方から一言】

「冷やしてお召し上がりください。コシが出て、ひんやり涼やかな舌触りを楽しめます」(店主)

問い合わせ情報

問い合わせ情報

「銀座かずや」
東京都千代田区有楽町1‐6‐8 松井ビル1階
TEL:03‐3503‐0080
商品:かずやの煉 抹茶
価格:2150円(税込)
販売:1箱から
日持ち:2日間
営業:11時30分~15時(売り切れ次第閉店)。日曜、祝日休み。臨時休業あり。

text:Yoko Yasui
photograph:Hiroshi Okayama