両手を広げて歓迎するか、避けられない運命と諦観をもって受け入れるか。電気自動車(EV)に対する態度はひとによってだいぶ違うだろうが、少なくとも、日本でもEVは増えている。最新モデルはジャガーが手がけた「I‐PACE(アイペース)」だ。

「I‐PACE」で感心するのは、乗ると「EVもアリだな」と思わせるほど説得力のある出来のよさである。「SUV」とメーカー自身が定義するように、全高1565ミリとすこし高めのプロポーションを持つ。

「キャブフォワードデザイン」と自動車のデザイン界では呼ばれる、ウィンドシールドが前に出て、フロントボンネットを短くしたスタイリングが特徴的だ。エンジンを搭載していないから可能になっている。ボンネットを開けると物入れなのだ。

左:ハッチゲートを開いてアクセスする荷室容量は650リッターを超える/右:フロントにエンジンがないぶん物入れとなっている

前後の車軸に1基ずつ配置されたモーターを駆動するリチウムイオンバッテリーの出力は90kWhと高い。実際に運転すると、その数値から期待できるとおり、かなりパワフルな印象をうける。

電気自動車を体験したひとはすでにご存知と思うが(プリウスPHVなども含めて)発進加速のするどさはエンジン車の比ではない。モーターは、瞬時に最大トルクが出るからだ。「I‐PACE」も出足がよい。

モーター出力は294kWでトルクは696Nmとパワフルだ

そのあとも速度のあがりかたは気持いい。文字にすると、しゅるしゅるしゅる~というかんじで、スムーズに加速していく。車体は全長4695ミリ、車重2200キロとけっこうなボリューム感だが、それをまったく意識させない。

感心させられたのは、コーナリング時のハンドリングのよさだ。サスペンションシステムとステアリングの設定をはじめ、重量配分や重心高などが考えぬかれているのだろう。ステアリングホイールを切り込んだ方向に反応よくノーズが向く。

ボディのロールは抑えめで、「スポーツサルーン」を手がけてきたジャガーが自社のアイデンティティを新世代のEVにもうまく盛り込んでいるのがわかる。

少し前までアップルやグーグルがEVづくりに意欲を燃やしていたが、「I‐PACE」のようなクルマを一朝一夕に開発できるわけはない。自動車作りは経験学といわれるように、EVという新世代にもル・マン24時間レースから現在のフォーミュラEにいたるまで、あらゆるシーンで得た知見が活かされているかんじだ。

WLTCモードでの航続距離は438キロ(CHAdeMO対応)

「I‐PACE」は、減速時にモーターを回しバッテリーに充電するEV特有の回生ブレーキシステムを使い、独特の操作性を提供している。モニター画面の設定で強弱が選べるようになっているのだ。

回生ブレーキが強く働く設定をすると、アクセルペダルから足を離しただけでまるでブレーキペダルを踏んだぐらい強い制動力が得られる。これは「シングルペダルポリシー」などと呼ばれるものだ。

個人的には弱が好みである。強くすると、アクセルペダルのオンオフによるGのかかりかたで同乗者が前後に揺さぶられ、気分が悪くなることもあるかもしれないからだ。

写真はパノラミックルーフ装着車

室内は広い。ラージサイズのSUVなみ、とジャガーが胸を張るだけのことはある。後席もたっぷりしたスペースがあり、かつ熱吸収のグラスルーフのオプションを選べば頭上の開放感も得られて嬉しいのだ。

スタイリングには上質感があるし、室内装備も豊富だ。携帯電話によるエアコンやドアロックの操作もできる。オプションのアクティビティキーはリストバンド型のカーキーで、マリンスポーツをするひとなどには便利だ。技術がユーザーのライフスタイルと結びつけられている。

左:10インチと5インチの液晶スクリーンで情報を得られると同時にタッチ操作ができる「タッチ プロ デュオ」搭載/右:シート地はレザー(写真)、ラックステック、プレミアムテキスタイルから選べる

車載通信モジュールで、インフォテイメントシステム、テレマティクスユニット、バッテリーコントロールといったアプリケーションはつねにアップデートされている。それによって「メンテナンスのための入庫回数を減らすことができます」とジャガーではしている。

価格は959万円から。高めだが、新車保証は5年だし、8年あるいは16万キロのいずれかでバッテリー容量が70パーセントを下回った場合の保証もある。

小川 フミオ/Fumio Ogawa
慶應義塾大学文学部卒。複数の自動車誌やグルメ誌の編集長を歴任。そのあとフリーランスとして、クルマ、グルメ、デザイン、ホテルなどライフスタイル全般を手がける。寄稿媒体は週刊誌や月刊誌などの雑誌と新聞社やライフスタイル誌のウェブサイト中心。

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