水出しの「エテ」はまるでナチュラルワイン
昨年、兵庫に本店を持つ紅茶専門店「ウーフ」が、南青山は根津美術館の近くにひっそりとオープンした。場所はマンションの3階で看板の類は一切ない。そんな知る人ぞ知る店を訪れるのは紅茶好きにほかならないが、ワイン好き、とりわけナチュラルワイン好きにもファンが多い。
「数年前にとあるワインのイベントに参加した際、ナチュラルワインのキーマンがうちの紅茶を気に入ってくださったんです。それをきっかけに同様のイベントへ出店する機会が増え、自然な造りのワインが好きな方々に共感を得られるように。ワインも紅茶ももとは同じく農作物ですから、おいしさの共通項があるのでしょうね」
今回、紹介する「エテ」はフランス語で夏を意味するとおり、「夏をイメージしたオリジナルの紅茶です」と店主の大西泰宏さん。質の高いダージリンとセイロンティーにレモンなどの精油で香りづけをしたブレンドティーだ。
とあるワイン会でこの紅茶をはじめて飲んだときの衝撃は今でもよく覚えている。水出しのエテは、体のなかを風が吹き抜けていくような爽やかな味わいで、余韻が長く続く感じは、体にしみ込むナチュラルワインの飲み心地と似ていた。こんな紅茶があるのかと驚いたのだ。
クオリティー・ファースト
兵庫県芦屋にある本店の創業は2002年。インポーターとして紅茶を輸入する大西さんには、開店当初から筋を曲げずにやってきたことがふたつあるという。
「ひとつは、心の底からおいしいと思う好きなものしか扱わないということ」
現在、インド、スリランカ、中国から年間7トンの茶葉を仕入れているが、同じ茶園でとれた茶葉でも味わいはさまざま。足繁く通う現地で、あるいは現地からサンプルを送ってもらい、「雑味がなく余韻があり、おだやかだけれども意志を感じる」自分好みの茶葉を選り抜き、これだと思ったものだけを扱うと心に決めている。
「もうひとつは、オリジナルのブレンドティーをつくるときは香りづけに天然のものしか使わないということです」
合成香料には頼らず、大西さんは天然由来の精油やスパイスなどを使用。研ぎ澄まされた香りに仕上げ、茶葉そのものの味を生かしたブレンドティーを提供することに徹しているのだ。
それだけではない。大西さんがすごいのは、紅茶のために自分自身のライフスタイルを合わせているところ。繊細な紅茶の味を識別する舌を維持するべく添加物は極力とらず、微細な香りをかぎ分けるためにシャンプーも石鹸も無香料のものを使用。早寝早起きをして、ストレスフリーの生活を心がけているという。
「すべてはクオリティー・ファーストのため。そして、この仕事を長く続けるためです。自分の味覚がぶれるようになったらきっぱり引退しますよ」
そんなぶれない価値観を持つ大西さんが選ぶからこそ、ウーフの紅茶は特別感があり、おいしいのである。
食中“茶”のすすめ
「紅茶はさまざまな種類があるせいか難しい飲み物と思われがちですが、シンプルでおいしい飲み物です。淹れ方も、ごくごく簡単ですから」
という大西さんに、シンプルな水出し冷茶の淹れ方を教わった。
容器に茶葉5gを入れ、水1リットルを注ぐ。冷蔵庫でひと晩寝かせて、翌朝、茶葉を漉せば完成だ。失敗しようがないほど簡単なので、誰でもおいしく淹れることができる。
そこで、ホームパーティのような席に誘われた際、ホストへの手土産にする美しいパッケージ入りの茶葉とともに、自分でつくった水出し冷茶をおもたせとして持参するのも手。爽やかな「エテ」は、スイーツにはもちろん、和洋中問わずさまざまな料理に合い、食中“茶”にもなりえるからだ。日本酒やワインのように紅茶で料理を楽しむという趣向は新鮮で、ホストにもゲストにも喜んでもらえる。酒が弱い人も感激するはずだ。洒落た手土産になるだろう。
【店の方から一言】
問い合わせ情報
「ウーフ」
東京都港区南青山6‐3‐14 サントロペ南青山302
TEL:03‐6450‐6998
商品:「エテ」
価格:40g 1600円、80g 3000円(税別)
販売:1袋から
日持ち:1年
営業:12時~19時。水曜休み。臨時休業あり。
text:Yoko Yasui
photograph:Hiroshi Okayama