蔵元が本気で挑む酒質の競争

毎年7月になると、全国から気鋭の蔵元や酒販店たちが、いっせいに東北を目指す。目的は、宮城県仙台市で開催される「仙台日本酒サミット」に参加するためだ。「仙台日本酒サミット」とは、各蔵元が出品する市販酒を、参加者全員のブラインドによる唎き酒で、入賞を争うコンテスト。吟醸酒や純米酒など、毎年テーマが異なり、同じ条件のもと1点(最高点)~5点で採点し、統計から平均点を出して酒の順位を競う。特筆すべきは、ただ順位を競争するだけではない。醸造技術を指導する先生方を講師に迎え、各蔵元が自信を持って出品した酒を、銘柄を伏せずにパブリックの場で批評される、スリリングな展開が待ち受けていることだろう。

つまりは、こういうことだ。参加者がブラインドで唎き酒をした後、一同が集う会場では壇上にのぼった講師の先生2名が、一銘柄ずつ酒の感想を述べていく。その際、前方のスクリーンには銘柄が映し出されるものの、これを背にしている先生方には、自分がどの銘柄を批評しているのかわからないという仕組み。スクリーンに銘柄が大きく映るなか、先生からは歯に衣着せぬ批評が飛び交い、蔵元が最も肝を冷やすのが、このタイミングである。

蔵元は味わいの良し悪しを指摘されるだけではなく、例えば「火入れ(加熱殺菌工程)のタイミングが遅い」「もっと低い温度で貯蔵を」など、ときに日本酒づくりの欠点を見透かされるように、具体的なつくり方における問題点をピシャリと言い当てられる。一つずつ銘柄が批評されるたびに、一同に緊張が走る。有名無名、ベテラン新人は一切関係ない。忖度なしのガチンコ勝負が繰り広げられる、日本酒業界のなかでも稀有なコンテストなのだ。

全国の蔵元、酒販店が参加し、ブラインドでテイスティングしていく(写真提供・山内聖子)
講評の様子。左奥のスクリーンに銘柄が映しだされ、講師の先生はどの銘柄かは知らされないままコメントを述べる。忖度なしの舌鋒に、会場に緊張が走る(写真提供・山内聖子)

スター銘柄が誕生することも

ところで、開催場所はなぜ仙台なのか。発起人の一人である、「日高見」をつくる蔵元、平井孝浩さんが教えてくれた。

「25年くらい前に、仙台にある地酒専門店の『カネタケ青木商店』と取引する蔵元5~6人が、青木智之社長(故人)のもとに酒を持って集まり、懇親会で批評し合ったことが、『仙台日本酒サミット』誕生のきっかけでした。青木さんがいたからこそ生まれた、この会のルーツを尊重する意味もあり、毎年、仙台で開催しています」(平井さん)

当初は、宴会の延長で行なっていたという批評会だったが、徐々に集まる蔵元が増え、「せっかくならば酒質を高められる場にしたい」と、2000年に前身の「日本酒サミット」を発足。日本酒のさらなる発展のために他の酒販店も交え、あえて公の場で、唎き酒のプロである醸造技術の先生に公平に批評してもらうという、現在のスタイルをつくりあげた。平井さんが続ける。「蔵元が酒質を磨くだけではなく、酒販店さんたちも唎き酒能力を高め、互いに切磋琢磨できるような場を目指しました。酒販店も有名だから、売れているからというだけで銘柄を選ぶのではなく、唎き酒する力を鍛えて本当にいいと思った酒を、自信を持って売れるきっかけができればいいと思いました。つくる方も売る方も、モチベーションを上げて刺激を与え合えば、日本酒もさらに向上すると考えたのです」

また、この会のもう一つの特徴が、蔵元と酒販店を繋ぐ、よき出会いの場になるということ。上位になった銘柄や、酒販店の目に止まった蔵元は引く手あまたになり、酒販店も普段なかなか交流できない蔵元と交渉することもでき、これは! という新人発掘の機会を得ることができる。なかには、「仙台日本酒サミット」を契機に一躍、スター銘柄になる酒蔵もある。全国の名だたる酒販店が参加することもあり、とくに、無名の蔵元にとっては千載一遇のチャンスの場でもあるのだ。