注目の結果はいかに? 初参加の銘柄も健闘

さて、今回の出品酒のテーマになったのが、地元の米を使った火入れの純米と名のつく日本酒。純米酒から純米大吟醸まで、さまざまな顔ぶれの酒が揃った。出品されたのは85銘柄で、蔵元や酒販店などの他、講師陣を含む計193名が品質をジャッチした。ちなみに、批評の講師をつとめたのは、宮城県産業技術総合センターの橋本建哉先生、秋田県総合食品研究センターの渡邉誠衛先生、総評を福島県ハイテクプラザの鈴木賢二先生という凄腕の面々。果たして結果はいかに。蔵元と酒販店が選んだ総合部門の1位から5位までは、以下の通り。同率のため4位が二銘柄という接戦が繰り広げられた。

4位 赤武(岩手)AKABU 純米吟醸

720ml/1600円(税別)

初参加で堂々の4位を勝ち取ったのが、若干27歳の蔵元である古舘龍之介さんがつくる「赤武」。吟醸香が華やかで適度な酸味と甘みのバランスの良さが、評価につながった。「光栄な順位ですが、数字を見るとちょっと悔しい。初めて参加しましたが、全員の前で批評されるのってワクワクして楽しいですね。次回はさらに上位を狙いたい」と物怖じしない表情を見せた古舘さん。橋本先生は「口当たり滑らかで適度なキレもある。旨味と酸味のバランスがよい」、渡邉先生は「香りが華やかで後味がやわらかく完成度が高い」と最高点をつけた。

4位 七賢(山梨)絹の味 純米大吟醸

1800ml/3000円(税別)

なんとこちらも初参加で4位に入賞。「七賢」は主に香りを評価され、「カプロン酸エチル系の華やかな香りがよく出ている」と渡邉先生。最高点をつけた橋本先生も「華やかな吟醸香があり、後味のキレもありスッキリしていい」。蔵元の北原亮庫さんは「初参加なので正直驚きです。でも香りをもっと改良したいと思った。七賢は量を増やしながら品質を高めるのが目標なので、さらに上のステージを目指したい」と次回への展望を語った。

3位 而今(三重)純米吟醸 山田錦

720ml/1900円(税別)

今やスター銘柄として名高い「而今」は、あらためて実力を発揮する結果に。「香りと甘み、酸味がきれいで後味もいい」と評価する橋本先生に続き、「きれいな甘みが際立つ」と渡邉先生。特に酒販店の評価が高く3位に食い込んだ。蔵元の大西唯克さんは入賞を喜びながらも、こう語った。「自分にとって仙台日本酒サミットとは、ただ賞を取りに行く場ではなく、酒の改善のヒントを見つけにいく場所です。これからも自分がつくりたいものを曲げて上位になるのではなく、自分がつくりたい酒で成績を残していきたい」

2位 自然郷(福島)BIO 特別純米

720ml/1333円(税別)

「いやあ、本当にびっくりしました」と蔵元の大木雄太さん自身も驚くほどの結果になったのが「自然郷」。昨年も総合2位だったこの酒を、さらに改良したのが再び功を奏した形に。「いろいろ使っていた酵母を福島酵母一つに絞り、当社の特徴でもある糖化酵素の強い麹を生かして麹歩合(仕込配合)を低くしたのが結果良かったのかもしれません。BIOは自分がこれから力を入れていきたい酒なので素直に嬉しい」と大木さん。特に酒販店からの評価が高く、「ソフトに味がまとまっていて滑らかな香り」と橋本先生。続いて渡邉先生は「バナナのような香り。美しいほのかな熟成感もいいアクセントに」と称賛した。

1位 みむろ杉(奈良)ろまんシリーズDio Abita

720ml/1500円(税別)

見事に圧巻の1位を獲得したのは、「みむろ杉」だった。「みずみずしく軽快でクリア」と渡邉先生。橋本先生も「酢酸イソアミル系の穏やかな香りと滑らかな口当たり。ほのかなガス感もいい」と絶賛するなど、両先生ともに最高点をつける結果に。参加3年目にして1位を獲得した蔵元の今西将之さんは、喜びと興奮を隠せない。「やりました! 念願の1位を取れて嬉しいしかありません。7年前に酒蔵に戻った頃は、お世辞にも美味しいとは言い切れない酒だったのですが、蔵人や日本酒業界の諸先輩方のみなさんのおかげで、頑張って酒質を上げることができました。自分の蔵を育ててくれた仙台日本酒サミットという場に、あらためて感謝したいです」

激戦の果てに見えてきた酒質の進化

今年も白熱した「仙台日本酒サミット」だが、実力のある蔵元に初参加の蔵元が割り込んで上位になるという激戦だった。しかしながら、講師陣が全体的な出来栄えに感嘆するほど、どの蔵も酒質がさらに進化したことは明らかである。

総評をつとめた鈴木先生が言う。「どの酒も昨年よりもレベルが高いですよ。今回のテーマだった火入れした純米酒は、味が劣化しやすい生酒よりも、ますます日本酒の主流になって行く予感がしています。これからも蔵元には、今回の仙台日本酒サミットで出品したような、質の高いきれいで美味しい日本酒を造り続けてほしいですね」

公の場で批評を受けた蔵元たちは、結果をしっかり受け止めて改善点を酒蔵に持ち帰り、来季の酒造りに生かすだろう。追いつけ追い越せで、来年の「仙台日本酒サミット」に再び挑む。

山内 聖子/Kiyoko Yamauchi
呑む文筆家・唎酒師。17年以上、地道に全国の酒蔵を取材して日本酒を呑み続け、週刊誌や月刊誌などで執筆中。日本酒セミナーの講師としても活動中。著書に「蔵を継ぐ」(双葉社)。新刊は年内に発売予定。

text:Kiyoko Yamauchi
photograph:Wataru Mukai