「海の幸フランス料理」×サントリーウイスキーのコラボ

「シマカン」の愛称で親しまれている、三重県の伊勢志摩国立公園は賢島に建つ「志摩観光ホテル」。おだやかな英虞湾を望むクラシカルなリゾートホテルとして人気を博しているが、じつは、足繁く通う食通のファンも多い。豊かな地の食材でつくり上げる「海の幸フランス料理」を目当てに、はるばるやってくるのだ。

歴史あるホテルの厨房をとりしきるのは、第7代総料理長の樋口宏江シェフ。2016年の伊勢志摩サミットの舞台となった同ホテルで、世界の首脳陣を唸らせて話題となった、ガストロノミー会の注目株である。そんな実力派シェフが生み出すフランス料理とウイスキーをペアリングする特別ディナーが開催中と聞いて、古代、朝廷の食材を奉納する“御食つ国”と呼ばれた志摩まで足を運んだ。

ホテルの目の前には、英虞湾の眺望が広がる
ペアリングディナーを楽しめるフレンチレストラン「ラ・メール」

特別ディナーは題して、「ウイスキーと御食つ国のマリアージュ」。ペアリングのウイスキーを監修したのは、サントリー第5代チーフブレンダーの福與伸二氏だ。伝統と革新を重んじる二人のコラボが堪能できる、なんとも贅沢なディナーである。

「こんなに繊細なフランス料理は初体験でした」と絶賛する福與氏が、樋口シェフの料理のどこに焦点をあてウイスキーをペアリングしたのかが気になるところ。福與氏にたずねた感想も含めてディナーの全貌を紹介しよう。

車海老に寄り添う「メーカーズ・マーク」

食感と香りを違えた3種のアミューズ
こちらは車海老を3種の調理法で

特別ディナーが味わえるのは、穏やかな英虞湾を眼下に見下ろせるホテル内のフレンチレストラン「ラ・メール」だ。

まず登場した料理は、3品のアミューズ・ブーシュ。鹿肉のソフトな燻製に、地場産の黒鮑のスモーク。そして、真珠の養殖が盛んな英虞湾ならではの珍味、真珠貝の貝柱をカクテルソースで味わう前菜。それらスターターに合わせる一杯目として福與さんが選んだウイスキーは、こちら。

「柔らかな燻製香や甘酸っぱいソースが引き立つよう、華やかな香りとまろやかな味わいのバーボンウイスキー『メーカーズ・マーク』をハイボールで合わせました」

さすがハイボールはどんな料理にも合う! とシンプルな感想を抱いたが、2品目の、さまざまな調理法で仕上げた車海老料理に移ったとたん、同じハイボールの印象が一転。塩焼きは絶妙な火入れのしっとりした味わいが、海老の頭はその香ばしさが、クールブイヨン煮はその繊細な香りが、ハイボールを飲むことで思いきり膨らむのである。同じウイスキーでも合わせる料理によって印象が変わることを実感した瞬間だった。

「白州」が生み出す繊細なペアリング

白州のペアリング
テーブルで写真の皿の上にスープを注いでサーブする

次に登場したのは、ウニの冷製スープである。イセエビなど甲殻類のダシをベースにしたジュレや、爽やかなトマトソース。複雑な要素を絡み合わせて味の輪郭をまとめた濃厚にしてきれいな味のスープに、福與さんはどう出たか。

「複雑で濃厚な味わいを、ほのかにスモーキーフレーバーが香る『白州』のハイボールで、爽やかにまとめます」

白州といえば、南アルプスの天然水で仕込んだ清らかでシャープなキレ味が特徴のシングルモルトだ。濃厚なスープに合わせるのは意外な気もしたが、ペアリングすることで料理も酒も単体で味わう以上にきれいな味わいに昇華。酒、料理ともに原点となるのは水。その水のよさを感じる、なんとも繊細なペアリングだった。

個性派ウイスキー「碧Ao」で白身魚の余韻を深める

碧Aoとのペアリング
一見クラシカルだが、モダンなセンスを感じさせる香草焼き

ペアリングの妙もさることながら、樋口シェフの料理も感動の連続だ。代々受け継がれてきた技法を守りながら、しなやかな感性で生み出した料理はどれも繊細にして芯の通った味わい。

中盤に登場したスズキの香草焼きも然り。ベルモットとトマトを煮詰めたほのかな酸味あるソースを添えた一皿は、クラシカルに見えて軽やかだ。この料理とともに供されたのは、サントリーから今年の春に発売された「ワールドウイスキー 碧Ao」。5カ国の原酒を卓越した技術でブレンドし、それぞれの個性を重ねたブレンデッドウイスキーである。

「スズキはハーブの香りが立つ力強い風味に仕上げてあるので、負けないウイスキーがいい。世界5大ウイスキーのさまざまな個性が織りなす『碧Ao』を合わせることで、味わいの変化や深い余韻が楽しめます」

味わえば、福與さんの目論見どおり。どことなく魚の塩辛を彷彿とさせるような濃縮感ある旨味と清らかな香味に酔える碧は、驚くほどスズキの香草焼きにハマっていた。ハイボールのほか、ストレートでも試したが、決して料理の味がかき消されることはなく、むしろ繊細な香りが徐々に浮かび上がって、なんとも深い余韻。