もし2台、クルマが持てるなら――。これはクルマ好きにとって永遠の“命題”といえるかもしれない。3台では、バリエーションが増えすぎておもしろくない。1台プラスもう1台というのがミソなのだ。

私だったら、セダンとスポーツカーか、ステーションワゴンとコンパクトカーだろうか。混んでる都会や細い道を考えると、英国のオリジナルミニにはいまも惹かれるが、現行車では、仏ルノーの「トゥインゴ」は最右翼といっていい。

自分がむかし「5(サンク)」というルノーのコンパクトハッチバックに乗っていたせいだろうか。ルノーは小さなクルマを作らせるとほんとうまい、と思うのだ。

ヘッドランプにC字型のLEDポジションランプが組み込まれたのが新型の特徴

2019年8月22日にルノー・ジャポンの手で、トゥインゴの最新版が導入された。92馬力の897cc3気筒エンジンをリアに搭載し、6段ツインクラッチ式変速機を介しての後輪駆動、というメカニズムは変わっていない。

今回の眼目は、ヘッドランプとリアコンビネーションランプがLEDを使って新しい意匠になったことと、スマートフォンの機能がミラーリンクで使える7インチの液晶モニターを備えたことだ。

1リッターに満たないガソリンエンジンを3645ミリとコンパクトな車体に搭載しているため、メーカー発表の燃費はリッター16.8キロ(WLTCモード)と悪くない。

着座姿勢は脚を前に投げ出して座るのでスポーティな雰囲気だ
7インチのタッチスクリーンが設けられ、スマートメディアとミラーリンクできるようになった

それに輪をかけて魅力的なのは、操縦性と乗り心地だ。68kW(92ps)と数値でもけっして悪くないし、実際は想像いじょうに加速性にすぐれ、市街地でも高速道路でも早いペースで走れる。

カーブを曲がるときも(常識的な速度なら)ステアリング特性はニュートラルに近くて、たいていのカーブは難なくこなしてしまう。

重量のあるエンジンは後車軸より後ろに搭載していることもあって、操舵力は軽め。でもフロントが浮き気味になるとか、ふわついた走りではない。

通常のクルマとちがって、フロントにエンジンを持っていない強みは、前輪の舵角が大きくとれるところにある、とルノー(ジャポン)は強くアピールする。

最小回転半径は4.3メートルだそうで、たしかに実際に細い道や駐車場での取り回しがよい。コンパクトカーだから取り回しがよいということはなくて、まさに大事なのは“切れ”なのだ。

前輪駆動車の多くはドライブシャフトとエンジンをつなぐ部分のジョイントに、舵角が大きくとれるものを採用していない場合が多い。結果、全長が1メートル近くも長い後輪駆動車に取り回し性で負けてしまうことも多々ある。

例をあげれば、好調なセールスを記録しつづけるトヨタ・ヴィッツである。全長3945ミリの車体を持ちつつ、最小回転半径は最良で4.5メートル(グレードによっては5メートルを超えるものもある)と、やや大きめ。

軽自動車ではどうかというと、日産デイズでも4.5メートルなのだ。もちろん本当の意味での回転半径とは、タイヤの軌跡でなく車体で計測しないといけない。なので、ここでの比較はいちおうの目安であることは、おことわりしておかなくてはならない。

後席ドアのウィンドウは巻き上げ式でなく前ヒンジで開く簡素のタイプ

スタイリングも私が好きなポイントだ。プロファイルといって側面から見たときの印象は、適度にもっこり。つまり、3645ミリの全長に対して1545ミリの全高であることに加え、ノーズ部分は短めで、おむすびを連想させる。

加えて、今回のマイナーチェンジではLEDライトでヘッドライトの輪郭を囲うようなデザインが採用されたため、ヘッドランプの存在感が強調された。はたして、キュートと表現したくなるような印象である。

いっぽうで、4ドアなのに後席用のドアは、ドアハンドルもわかりにくい位置に“隠された”ため、実用一辺倒でなく、適度なスポーティ性を感じさせる。これもトゥインゴの美点だと私は思う。

日本での展開はモノグレードで、198万6000円(10パーセントの消費税込)だ。5に乗っていなくたって、きっと好きになれるクルマである。

小川 フミオ/Fumio Ogawa
慶應義塾大学文学部卒。複数の自動車誌やグルメ誌の編集長を歴任。そのあとフリーランスとして、クルマ、グルメ、デザイン、ホテルなどライフスタイル全般を手がける。寄稿媒体は週刊誌や月刊誌などの雑誌と新聞社やライフスタイル誌のウェブサイト中心。

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